6年ぶりの石野卓球新作。かなり吹っ切れた内容となっているという評判でしたので、期待して聴きました。思えば前作の『CRUISE』はかなり落ち着いた印象の作品でした。その後すぐに新作を出すといってから6年の歳月が過ぎ去ってしまいましたが、予想していた路線とは少し違う進化の仕方をしている作品が届けられています。
「官能」がテーマとのことですが、序盤は聴いていて男性的な四つ打ちの世界と異なる女性的なしなやかさ、というよりも男性から見た女性像をテーマにしているのではないか、という感覚で聴き進めていました。しかしながら、3曲目の「Lunar Kick」からビートが強くなって少し印象が変わり始めます。その後の「Crescent Moon」や「Die Boten Vom Mond」での深い音の鳴り方を聴いていると、単なる聴き味の良いテクノといった趣は消えて、よりディープなアンビエントといった感覚に包まれていきます。かといって不快ではない。ビートはきちんと刻まれているので安心感もあります。
そして白眉は「Amazones」。これは耳を奪われるカッコいい曲です。全体的な躍動感と変化していく音、そこにポップな意匠を纏った説得力のある楽曲。これは最近なかなか出会えない音楽だと思いました。
後半にまた落ち着きを取り戻していきますが、全体的に聴きやすい、といっても平坦ではなくてきっちりと物語がある、そんな印象の好盤でした。無闇に攻める時代は終わって、むしろ余裕すら感じさせる流石の出来映え。賞味期限が長そうな作品に仕上がっていると思います。