細野晴臣『Vu Ja De』

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ここのところ遠藤周作の弧裡庵系のエッセイを読んでいますが、親の介護の件もあって死を意識することが増えました。これは不吉なことでもなんでもなくて、単に自分を含めて周りが歳をとったというだけのことですが、横尾忠則ツイッターで呟いていたように、80を越えると「死はすぐそこにあるもの」という感覚で、そこにあまり意味なんかない。でもやはり終わるということには何らかの意味があるし、残りの時間で何をやるか、そんなことをYMOのメンバーもムーンライダーズのメンバーも考え始めているんじゃないかなと思います。逆算する考え方。何でかというと体が言うことをきかなくなるからですね。

ということで細野晴臣の新作はカバーとオリジナルの2枚組な訳ですが、各々30分に満たない収録時間なので、結構気軽に聴けたのが嬉しかった。少ない、とは思いません。ビートルズの初期作品も20分台ですので。要は内容が濃いかどうかです。で、非常にいいアルバムですね。

一番好きなのはカバーの最後に入ってる「Anna」かなあ。これ、昔見たパリのディズニーランドの映像でバックに流れていたんですよね。あれは何だったんだろう。それで聞き覚えがあるんですが、端的に聴いていて楽しい。それが好きな理由です。今回、ご自身による解説がそれぞれ詳細に付録としてついていますが、考えるより感じた方が良いのであんまりまだ読んでいません。後でじっくり読むとして、とりあえず感じた音で一番良かったのはそれ。

2枚目のオリジナルの方は「エッセイ」と名指されているだけあって多種多様ですが、CM提供曲が多いですね。印象はかつての『コインシデンタル・ミュージック』みたいです。

これがラストアルバムか?まだやりたいことはあるみたいなのでそうは思いたくないですが、それでも充分な程の物量とクオリティですね。70を越えてもこんなにやりたいことがあって実際にやれているのは幸せなことだと思いますが、果たしてこれから10年がどうか?まだまだ頑張って頂きたいですが、それは残すもの、伝えるものが静かに置き土産のようにそっと添えられるようなものだと思います。作品だということもあるし、何より一緒に皆歳をとっていくので感慨深い。今回、高田漣星野源の無条件に受け入れる反応を見るにつけ、御大、偉大なる先達への想いがなせる技であって少し不満だったんですが、もう少し時間をかけて響いてくるもの。これは独りで味わうもので、実は悲しみと裏返しだったりするんだと思います。分かるかなあ、これ。

ハレとケでいうとケの方に接する機会が増えてきた昨今、老いていくこと、終わっていくことが身近に感じられる今だからこそ、感じる優しさや温かさがとても貴重で、これは言葉にならない。笑うことでもない。感じることなんですね、きっと。そんなことを考えたとても大切な作品でした。短いからまた聴くかな。この辺もいいですね、気軽で。