年明けのビールのCMで露出が高まっている坂本龍一の99年に出た本作はずっと聴かずに来た作品でした。まず当時「Back To The Basic」というコンセプトが気に入らなかったし、その後CM曲で「Energy Flow」が大ヒットしたことにも違和感があった。何故今ここでピアノなのか?そもそも癒し系って何だ?というような捻くれた怒りの感情ですね。
ところがその後歳をとってみて感じるのはやはり生音への愛着です。何度にもわたってピアノ曲が演奏され、作品化されてきたこともありますが、何よりここに今の「音そのもの」に拘る坂本龍一の晩年の作品の原点、萌芽が見て取れる。これはそれなりに大きい転機だったんだな、と改めて感じながら聴いていました。良い作品集だと思います。やっと自分の耳が追いついた。
『BTTB』の方は楽譜とフロッピーが付いた豪華仕様で、それでも中古で数百円でした。『ウラBTTB』に至っては150円程度。こんな安く手に入れてしまって良いのだろうか?と思いつつ音源は普通に聴けるので満足度は高い。そして当時や今に思いを馳せる。
世紀が変わる直前は何かしら浮ついていて、その後の世界の変化を予測もできずに何となく世紀末感やミレニアム感を感じていた。そこからはや20年近くが経って、何かが壊れて何かが進んでいて、でも風景は一定で変わらない。変わっていくのは自分の意識だけ、という世の中にあって、何を見ながら進んで行けば良いのか?それは単純に「思い」だと考えています。その「思い」がこのピアノの音には詰まっているような気がする。それに耳を傾けるんですね。