細野晴臣『HOCHONO HOUSE』

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細野晴臣の新譜は1stソロアルバムのリメイクでした。こんなことがあるとは思いませんでしたが、高橋幸宏も『サラヴァ』を歌い直したりしていますし、小坂忠も『ほうろう』を歌い直していますので、左程驚くこともないのかもしれない。しかし、これはリメイク、作り直していますので、相当大変だっただろうなあと思います。

 

そもそものきっかけは、昨今世界中で若い人が『HOSONO HOUSE』を聴いている、という話を耳にしたことだったとのことですが、細野晴臣の場合、こうした世の中の動き、変化に触発されて行動を起こすことが多い。流れを観察していて、何か兆しがあると動き始める。YMOアンビエントもその産物なのだと思います。そしてその対象は自らの意識の変化にも及んでいます。

 

最近しきりに語っている「音の変化」。ヴァーチャルな低音に代表される「今の音」に大いに触発されて、本作にもその一端が現れている。いや、それは一部で、本格的にはこれから劇的に変わっていく。今はまだその始まりに過ぎないようです。こうした音楽制作における環境の変化と、そこに反応する自らの意識の変化。それらを冷静に見つめていて、その上で表現として作品までも残してしまう。これは本当に凄い。

 

実際の音の方ですが、そもそも『HOSONO HOUSE』では「薔薇と野獣」がグルーヴとして突出していて、全体的にも林立夫のドラムが非常にカッコいいアルバムでした。そのグルーヴ、ノリのようなものが今回は全体的に憑依しているように感じます。打ち込みのリメイク曲に顕著ですが、『HOSONO HOUSE』の時点では当然要素としてなかったニューオーリンズのリズムであるとか、テクノでリズムのうねりを表現する手法が、エッセンスとして刻まれていて、クールでカッコいい楽曲に生まれ変わっています。

 

もう一つは「歌」ですね。2005年の狭山でのライブ以降、再度歌うことに目覚めた細野晴臣がその後カントリー中心に「歌ってきた」実績がここにも現れていて、歌うことが楽しくなっている。『HOSONO HOUSE』の頃にはその感覚はなかったはずで、ジェームス・テイラーの低音ボーカルに励まされて作品化された。それが今や倍音満載の優しくてグルーヴも兼ね備えたボーカルに進化しています。

 

打ち込みの楽曲に加え、一方では弾き語りの宅録のような曲もあって、作品全体としてはまるでボックスセットを聴いているかのようです。50年という歳月がパッケージされた集大成的な雰囲気も漂わせつつ、実は新たなモードに突入している。これが70歳を越えた人の作品だなんて。ちょっと信じられないですね。