本来は72年にリリースされるはずだった、マーヴィン・ゲイの幻のアルバムの復刻版。とはいえ、実際には制作が頓挫して発表されることはありませんでしたので、これはその当時に録音された素材を寄せ集めた音源集となっています。しかしながら、寄せ集めた素材自体がどれも極上なので、結果的にはとてもいい作品集となりました。
タイトル曲の「You're The Man」自体は72年にシングルとしてリリースされて、前作の『What's Going On』の流れを汲んだ社会的なメッセージの濃い内容となっていました。しかしこれが思ったほどにはヒットしなかった。そのため、予定していたアルバム制作は棚上げになってしまったとのことです。
ただ、この時期に録音されていた音源は、時期は多少前後するものの、どれもグルーヴィーで美しい内容ばかりで、それらを時期的な共通点でくくって集めてみると、トータリティこそないものの、非常に完成度の高い美学が伝わってくる。制作スタッフも曲群によってバラバラなんですが、唯一マーヴィンが歌っていることで心地よさは確保されてしまいます。
マーヴィン・ゲイ自身は色々と問題のあった人のようですが、こうして作品だけ聴き進めてみると、とても繊細で美しい人なんだな、と感じてしまいます。亡くならなければこうした企画も出てこなかったんだろうとは思いますが、こうしてある一定のテーマに沿って集められた作品集としては、珠玉の出来になっている。それは時代がそうさせているんだろうと思います。