トッド・ラングレンズ・ユートピア『Benefit For Moogy Klingman』disc 6

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ラスト。ムーギー・クリングマンが亡くなって3日後のステージを収録した映像版ですが、いくつか気付くことがあります。

 

まず衣装がちゃんとしている。1月公演ではトッド・ラングレンなんかはボーダーのTシャツ姿で演奏していました。今回はサイケデリックな衣装できちんと準備したように見えますし、メンバーの衣装もそのトーンで統一されています。

 

次に会場が大きい。ラストの「Just One Victory」で会場全体がライトアップされて意外と空席が目立つのが若干残念ではありますが、それでも1月のクラブみたいな感じよりはホール然としていて、こちらも準備をきちんとしたんでしょう。

 

最後はやはりムーギーの不在です。特に「Another Life」や「The Seven Rays」などでの演奏の層の薄さや全体のもたつき感、この辺りはリハーサル不足もあるでしょうが、ムーギーが本来担っていた役割が逆説的に表面化してしまう哀しさを表しています。右側のキーボードがポツンと空席になっている光景が映し出されると何ともいえない感覚にとらわれてしまう。

 

最後の「Just One Victory」でようやくトッドがムーギーについての追悼のコメントを出しますが、それまではユートピアの単なる再結成に終わってしまうかのようで、ちょっと悲しい。それでもこうして意を決して興行を成し遂げたんでしょうから、メンバーの思いはいかなるものであったか。寂しいですが、こうしてかつてのミュージシャン達は鬼籍に入っていくんですね。

 

全体的にボリュームたっぷりの6枚組で大いに堪能しました。端的に70年代初期のユートピアは曲が難しいですがやはりコード感が独特で、構成は複雑なものの楽曲として美しい浮遊感を持つものが多い。聴いていて不思議なノスタルジアを感じさせます。2010年前後のトッドはこうした過去の自分の作品を再評価する活動に勤しんでいて、その最中でのムーギーの死がかつてのメンバーを集結させた。それがこうして記録に残ったことには感謝しなければいけませんね。