細野晴臣『NO SMOKING』

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最後は映画です。公開時も観に行きましたが、そこでも感じたのはとても多彩でかつ演奏シーンが多いので非常にグッとくる映画だな、ということでした。細野さんの音楽自体が多彩なので、その歴史を辿っていくと自然と多彩な音楽映画になる。これはとても楽しめました。

 

昨今の海外公演をフックにしながら過去の経緯を手繰り寄せて行くので、ここ最近の演奏シーンが沢山盛り込まれている。そういった意味では「今現在」の映像です。しかし、そのモチーフ自体が過去の音楽資産を再現する活動なので、必然的に現在と過去を行ったり来たりする映像になる。そういった意味では時間旅行をしているような感覚を覚えます。しかもそこに音楽がくっついている。これは贅沢ですね。

 

YMOのくだりの中で、過去の映像から最近の3人の映像、特にロンドン公演での「アブソリュート・エゴ・ダンス」の高橋幸宏坂本龍一小山田圭吾の飛び入りライブを観ていて、ああやっぱり最近の3人が集まる映像は和やかで、いい歳のとり方をしているなあ、と感慨深く観ていました。しかし、その後に唐突に『SFX』の頃、ノンスタンダード期のパートに戻った時点で、非常に構造的に複雑な構成を敷いているなあ、と感心しました。

 

基本的に現在の活動に寄せて構成しているのかと一瞬誤解していたんですが、きちんとやはり歴史を追おうとしている。YMOのパートでただ昔の映像を流すだけではなく、それが今現在どのようにアップデートされているのかを映像で綴っていく。従って、そのパートでは時間軸が前後していて、現在形の部分までフォローして終わらせる訳です。そして、そのまま行くかと思ったら再度歴史の方へ引き戻すという構成。これはなかなか凄い。重層的に活動を網羅しようとした努力が垣間見えます。素晴らしいですね。

 

ただ、その後アンビエント期の映像がもう少し続くかと思いましたが、そこは結構あっさりと終了してしまっています。ここは『オムニ・サイトシーイング』での観光の考え方やインディアンの思想に触れたご本人曰くとても重要な90年代にあたりますし、最近でいえば『花と水』の再評価などの特徴的な現象も生じているので、もう少しフォローしても良かったのかな、と思います。そのあたりに結構時間を割いていたら、もっと凄みのある映画になったのではないかと。

 

とはいえ、狭山のハイドパークでのライブから最近の歌への回帰が始まったことも押さえて現在に至る経緯もきちんと辿っているので、時間軸を行ったり来たりする特異な構成で音楽家の歴史を語る映画としてはツボを押さえていると思います。そして何より演奏シーンが多いのがやっぱりいい。映画館で見た時もその音響に痺れました。