はっぴいえんど『風街ろまん』

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かつて新春放談で山下達郎大滝詠一に向かって「風街ろまんは大滝さんの曲に始まって、大滝さんの曲で終わる、大滝さんのアルバムですよね?」と問いかけたのに対して、大滝詠一は「いや、これはやっぱり「風をあつめて」なんだよ」と答えていたのが印象的でした。

 

「風をあつめて」という曲はその後の影響力がとても大きい楽曲で、かつてはニュー・ミュージックの源流、今ではシティ・ポップの源流などといわれています。やはりここでの松本隆の詞が「都市」を描いたものであること、しかもその「都市」は東京オリンピックで失われつつあったかつての東京の風景であったこと、ここが大きい。これが「風街」というコンセプトを体現しているわけです。

 

細野晴臣の曲作りもこの「風をあつめて」と「夏なんです」の2曲により大きく飛躍しました。ジェームス・テイラー風の低音ボーカルという手法を発見し、圧倒的に静かな世界を築き上げた。ここへ来て、大滝詠一細野晴臣の2大巨塔、「右手の煙突」と「左手の煙突」が足並みを揃えて前面化しました。しかしピークはここまで。

 

YMOが『テクノデリック』でやり切ったのと同様、はっぴいえんども『風街ろまん』で燃え尽きてしまった。ここから先はサービスのようなものです。

 

大滝詠一はここでも絶好調で、「颱風」をはじめとして既に諧謔趣味すら漂う要素もあり、余裕で遊んでしまっている。キレのいい名曲「抱きしめたい」ではイントロにリズムの仕掛けを持ち込み、「空色のくれよん」ではヨーデルも飛び出します。「はいからはくち」では既に多重人格の一角をなす多羅尾伴内が登場します。

 

「はいからはくち」はシングルとアルバムでバージョンが違って、まるでビートルズの「レボリューション」のようですね。ある意味『風街ろまん』は『ホワイト・アルバム』のようだとも言えそうです。

 

一番好きなのは「春らんまん」という曲ですが、結構「あしたてんきになあれ」も捨てがたいですね。このファンキーなリズム、そしてリフがボーカルパートの裏でも継続する様は非常に洒落ています。

 

強烈な完成度を誇るアルバムなので、今後も折に触れて聴き返すことになると思います。