はっぴいえんどのラスト・アルバムは既に解散が決まってからLAで録音された作品です。松本隆は「今回ぼくはドラムだけ叩く。茂以外には歌詞は書かない」と宣言していて、実際細野晴臣は自作の歌詞で楽曲を制作しました。しかし、大滝詠一が渡米してから「歌詞が書けない」と言い出したので、仕方なく松本隆の詩集『風のくわるてっと』から2曲分を差し出した、という話。
松本隆に言わせると、この3rdアルバムは「存在してほしくない」作品、ということですが、実際にはいい曲も多くて、とても聴きやすいアルバムです。ビートルズの『レット・イット・ビー』もザ・バンドの『アイランド』も結構いいアルバムですよね。人間関係が良くなくても、いざ演奏となるとミュージシャンは音楽を楽しむことができる。
本作では鈴木茂の曲が3曲も入っていて、まさにジョージ・ハリスンのように後から才能が開花している。最初に聴いた時には地味に聴こえましたが、今聴くとその後のソロ作品『バンド・ワゴン』に繋がっているようで、とても興味深く聴くことができます。
細野晴臣の作品は冒頭の「風来坊」からして既にモダンで、必殺のキラー・チューン「相合傘」も入っている。こちらも1stソロの『HOSONO HOUSE』に直結しています。
大滝詠一は本作の前に1stソロ『大瀧詠一』をリリースしていて、既にソロ活動がスタートしていました。本作での「田舎道」「外はいい天気」の2曲もいい作品だと思います。少しこれまでと違うのは、はっぴいえんどのアルバムの中で唯一、大滝詠一のボーカルが7曲目になるまで聴こえてこないということ。この辺りは象徴的です。(「氷雨月のスケッチ」で少し聴こえますが。)
ラストの「さよならアメリカ、さよならニッポン」は、もはやアメリカからも日本からも学ぶべきものはない、というメッセージを投げかける曲ですが、ヴァン・ダイク・パークスのアヴァンギャルドなアレンジと、お経のように繰り返すリフレインが続く特殊な楽曲です。聴いているとまるで応援歌や軍歌のような、普通の曲とは違う雰囲気を漂わせていて、どこか虚空へ向かって歌っているような、不思議な感覚を覚えます。
たった30分程度の収録時間ですが、内容的には濃厚で、しかも意外と聴きやすいという不思議なラスト・アルバムです。
もし仮にはっぴいえんどが続いていたら大滝詠一の『ナイアガラ・ムーン』や細野晴臣の『泰安洋行』のようなニュー・オーリンズ路線の音楽をやっていたのではないか、という発言を大滝詠一が新春放談でしていました。実際にはあり得なかった話ですが、そこに鈴木茂の大爆発した1stソロ『バンド・ワゴン』のグルーヴが加わったら一体どういうことになっていたのか。想像するだけで目眩がします。
ただし、松本隆が『風街ろまん』で既に燃え尽きていたので、歌詞の世界が持続しなかったでしょう。そうなるともはや「はっぴいえんど」ではない。やはり、はっぴいえんどはここで終わるべくして終わったんだと思います。