89年リリースのこの作品は、発売当時何度聴いたか分からないくらい聴き込みましたので、既に自分の体の一部のようになっています。
2015年にスティーヴン・ウィルソンのサラウンド・ミックスによる再発がなされた際には、ブルーレイ・ディスクがソニー製で再生できないために一度は購入を見送りました。その後も問題は解決していないんですが、買うだけは買っておいた上、結果的にPCのフリーソフトであっさり解決したので、改めて聴き返すことにした次第です。
まずはスティーヴン・ウィルソンによる2015ミックスから。例によってオリジナルにあったクロスフェードを行わずにそれぞれの楽曲を単独で分離して収録しているので、あの畳み掛けるようなポップ・ワールドは大分世界観を削がれてしまう。それでも恍惚感は維持しているのは、ひとえに楽曲のもつパワーによるところが大きいと思います。
音圧は控えめなので左程耳に迫っては来ません。加えて、このミックスで新たに聴こえてきた音というのも今回は控えめだと思います。やはり『スカイラーキング』が衝撃的だったので、そこと比較するとオリジナルに近いミックスになっていると思います。それはいいことですね。
恍惚感の正体はベースラインにあり。どの曲でも動き回るベースの旋律が印象的ですが、最もすごいのはやはり「One of The Millions」でしょう。コリンの曲ですし。しかし「Poor Slelton Steps Out」のようなアンディの曲でも圧倒的にベースラインがそそります。この辺りが飽きない理由なんだろうなあ。冒頭の「Garden of Earthly Delights」でもラストのテンポが変わった後のサイケデリックなベースラインが一際目立っているので、結局ここに極まれり、といった感じです。
しかしそれにしても素晴らしい曲が多いアルバムです。目眩くポップ・ワールドは当時からその輝きを失っていませんが、ライブ活動をやめて以降、「箱庭的」と揶揄されることもXTCは多かった。それでもこのスタジオ黄金卿時代の作品は、この時点でかなりのところまで行っていて、他の追随を許さなかった。
当時アメリカに渡って録音したのも大きかったはずで、呆れるほどのいいお天気にアンディもびっくりしていたようです。結果的にかなり開放的な作品が出来上がった。これは気候と無関係ではないでしょう。
デュークスを経て制作された作品であることも大きい。サイケデリックなテイストが血肉化されていて、かつそこを突き抜けて弾けた音になっているところも素晴らしい点だと思います。ジャケットを批判する方もいましたが、いやいやどうして、これくらい弾けてもいいでしょう。最初に見た時はこの明るさが本当に嬉しかった。コンスタントにXTCが作品をリリースしてくれたのはこの辺りまでなので、思えば短い夢でしたが、こうして作品は永久に残されていく。その恍惚感はパッケージされて色褪せない。という感じかな。