高橋幸宏『薔薇色の明日』


83年にリリースされた作品。これはとても重要なアルバムです。

 

80年代前半の高橋幸宏YMOの先鋭性を伴い、かつ英国ポップスの流れとも連動したニューウェーブ路線の旗手として活躍している側面がありました。しかし根本的なところでは非常にロマンティックで、この要素が80年代後半から90年代にかけて徐々に表面化していくことになります。

 

このアルバムはその2つの要素の絶妙なバランスで成り立っていて、ある意味で高橋幸宏という人の活動を総括する象徴的な作品として、そのクオリティが頂点に達している。そんな風に思います。

 

冒頭の「Ripple」ではピエール・バルーにボーカルを委ね、ラストの「The April Fools」はバート・バカラックのカバーで幕を下ろす。ピエール・バルーバカラックでパッケージされている作品なんて他にあるでしょうか。非常にロマンティックですね。

 

加えて、「前兆」や「蜉蝣」といった日本語のポップスを、テクノ、ニューウェーブのフィルターを通して極上の音楽に昇華させている。そこには非常にわかりやすい普遍的なメロディと、今聴いても古びない先進的な音の質感が同居している。このバランス感覚は尋常ではないと思います。

 

「My Bright Tomorrow」のようなYMOと直結しているポップスを当時のファンは求めていたし、高橋幸宏もその要望に正面から答えていたと思いますが、一方で「6月の天使」のような振り切れたポップスも並列に並べてしまう。この辺りがこの作品の二面性を表しています。

 

今回のリマスターで非常にスネアの音が強いなあと感じました。ロマンティックでメロディアスな楽曲が多いにも関わらずビートは強い。ここにも二面性、バランス感覚が宿っています。リズムの切り込み方が鋭いのはやはりドラマーの作品だからでしょうか。そこを必要以上に主張しないところがいいですね。

 

とてもいい作品。今回のリマスターでまた音の奥行きが増して、聴き返す機会が増えそうなのが嬉しいですね。素晴らしい仕事だと思います。