トッド・ラングレンのユートピアが82年にリリースした作品がリマスター再発されました。しばらく前に出ていたようですが、今回雑誌でリリースを知って手にした次第。
このアルバムはユートピアが産業ロック寄りになって衰退し始める第一歩の作品、みたいな評価もあるんですが、実は結構見逃せない楽曲が収録されています。その中でも群を抜いているのが「There Goes My Inspiration」という曲です。
一連のベアズヴィル・レーベルでの作品群が再発されたタイミングでトッド・ラングレンが88年に来日した際に観に行ったライブで度肝を抜かれたのがこの曲でした。単独での来日でしたのでギターの弾き語りで披露してくれたんですが、当時はこの曲をまだ知らなかったこともあって、その美しさに完璧にノックアウトされました。今でもあの弾き語りがトッドのベスト・テイクだったんじゃないかと思っています。
トッドのエンジニアがこの曲のバックトラックを聴いた後に後から録音されたボーカルのメロディを聴いて驚いた、という発言もありましたが、コンパクトながら非常に複雑で流麗な旋律が信じ難いコードに乗せられて歌われる。この1曲だけでこのアルバムの価値は極上になっています。
2曲目の「Bad Little Actress」も本当にいい曲で何度も聴きましたし、トッドのトリビュート盤で鈴木さえ子がカバーした「Infrared and Ultraviolet」もいい曲です。何より全般的にとてもポップな仕上がりのアルバムなんですが、丁度トッドがベアズヴィルとの契約が切れた後にマイナーなレコード会社からリリースされた作品だったので、「余りプロモーションもされずに売れなかった」とトッドがブツブツ言っていたという話もあります。
今このアルバムを聴き直してみると、意外とユートピアのビートルズへのオマージュ・アルバム『Deface The Music』に近い印象を抱きました。このアルバムの2年前にリリースされているので時期的にも近いんですが、コンパクトにポップな音楽を繰り出す感じや分かりやすい楽曲群が結構似ているんだなあ、と今回初めて気付きました。意外と侮れないアルバムです。