その名の通り96年リリースの坂本龍一ピアノトリオの作品を手にしました。
実はリリース時にも聴いてはいるんですが、当時は印象が地味だったので正直いってあまりピンとこなかった。この前の作品『スムーチー』も手にしていますが、そちらも実は今ひとつの印象でした。しかしながら、この2作の間には大きな転換があります。
95年までの坂本龍一の音楽は、『スウィート・リベンジ』や『スムーチー』での大衆路線、「売り」を意識した作品を世に問う時期でもありました。しかしそれは実らなかった。そしてこの『1996』でのピアノ演奏への回帰と、ピアノトリオでのツアーが成功を納め、後の『BTTB』バック・トゥ・ベーシック、原点回帰につながっていく。さらにCM曲の『エナジー・フロウ』でヒットチャートに躍り出てしまう。
ご自身の出発点であるピアノ演奏を素直に行う方が大衆の支持を得る。これ以降、ピアノ演奏を主体とした音楽は晩年まで続き、遺作となった映画『opus』でもそれは継続していました。活動期間の前半が95年までとすれば、後半の原点回帰の活動は96年から始まっている。そのスタート地点に立っているのが本作『1996』ということになります。
実際には2009年の『out of noise』に代表されるような「音そのもの」への探求も同時になされていきますが、それと同時に演奏されるピアノ曲がリスナー側の救いになっていた側面もあると思います。そのピアノの音の変化も楽しい。そんな経緯を辿って、改めて坂本龍一のピアノアルバムを聴き直してみたい、そんな風に思いました。発売時点でのこの路線変更には興味が向かなかったのも事実ですが、年数を重ねて徐々にその味わいが沁みてきている。現在はそういった状況です。