遂にアナログレコードプレーヤーを買い直してしまいました。およそ30年ぶりとなります。昨今のアナログブームに背を向けていたのは、単価の高騰しているレコードへの欲望を封鎖していたのが理由だったわけですが、やはりアナログ限定のソフトが出てきてしまうとどうしても手を伸ばさざるを得ない。いつでもソフトがハードを牽引するんですね。
ということで、故障していたプレーヤーを新たに購入したものに交換して、最初に聴くのはやはり正式なジャケットで再発された『マニア・マニエラ』だろうということで、早速聴いてみました。
アナログの音を段々と思い出してきましたが、やはり低音が厚いですね。この、鼓膜を揺らす感じのビートは、学生時代を思い出す振動です。決して音がいいわけではありませんが、全体的に柔らかい。こういうものだったなあ、と当時に思いを馳せました。
本作を最初に聴いたのは84年に出たカセットブックでした。当時、高校の修学旅行で訪れていた京都の本屋で見つけて購入し、大部屋のラジカセで友達と麻雀をしながら聴いていたのが最初だと思います。「花咲く乙女よ穴を掘れ」を聴いて「民族音楽みたいだね」と言われたのを思い出します。
その後、ジャケットを変えて再発されたりもしましたが、たまたま渋谷の中古屋で正式ジャケットのCDを見つけて購入していたので、一応正式盤についても遅ればせながら手にしていたことになります。それでもやはりこのアナログレコードのサイズで見る素晴らしいジャケットは何もにも変え難い。これは工芸品として持っておかないといけない作品だと思います。デザインは奥村靫正。
久しぶりに聴いても既に音が体の一部となっているので新たな発見は左程ありませんが、やはりこの時期の鈴木博文は飛ばしていたなあ、と感じます。本作の白眉はB面1曲目の「工場と微笑」だと思うんですが、こんなカッコいいギターのリフはないと思う。歌詞のインダストリアルな鋭い言葉たちもとても立っていると思います。その後の「ばらと廃物」「滑車と振子」で畳み掛けていく感じも素晴らしい。
基本的に全曲いいですが、大きなテーマとして佐藤奈々子が発見した「薔薇がなくちゃ生きていけない」というヨーゼフ・ボイスのフレーズがこのアルバムの全体を貫いていて、冒頭の「Kのトランク」とラストの「スカーレットの誓い」にそのフレーズが登場します。この言葉に全体が包まれている。加えてジャケットにも薔薇が描かれていて、全体として強烈な印象を残すように設計されています。
この作品が「前衛的」という理由で82年当時に発売中止となってしまったのはとても残念でしたが、結果的にムーンライダーズの影の代表作としてその後も息の長い再演がなされていますし、直後から制作された『青空百景』も、この発売中止のおかげで生み出されたわけですので、今となっては伝説も含めて結果オーライだったのではないでしょうか。美学は残る。