小沢健二とスチャダラパー『ぶぎ・ばく・べいびー』


今夜はブギー・バック」から30年ということで、小沢健二スチャダラパーが再度邂逅しました。今回の方が断然カッコいいですね。

 

94年に「今夜はブギー・バック」が出た時は小沢健二の歌がなんとなくゆっくりしていて、ちょっと冗長な感じがしました。しかし、だからこそ良かった。きっと歌いやすくて覚えやすかったんだと思います。翻って今回はどうかというと、より複雑で高度。特にラップの裏で歌が入る瞬間とかは抜群です。珠玉の3分間ですが、歌えて覚えやすいかというと、そこは難易度が高い。

 

ボーナストラックで入っている4人の対談は30年間を30分で振り返る内容に結果的になっていますが、これも聴きごたえがあります。「人口の70%は昭和生まれ」「90年代は別に面白いと思っていなかった」みたいな話にはハッとさせられますし、今の方がものづくりとしては余計な気遣いがなくてやりやすい、みたいな話もいちいち納得できます。

 

30年という時が以前に比べて感覚的な長さを持たないことを証明するかのような文化的な事象が今回のリリースになっていると思います。

石野卓球『KARAOKEJACK』


01年リリースの石野卓球ソロ4作目。このアルバムは以前持っていたような記憶がありましたが、当時購入したのは「stereo nights」のシングルだけでアルバムは買わなかったのかもしれません。いずれにせよCD棚にはありませんでした。

 

この作品から吹っ切れて抜けが良くなったといわれていますが、確かに音はシンプルでシリアスな感じはあまりしないものの、ある一定の難解さを内包しているのは相変わらずで、一般向けではない作品のような気がします。

 

四つ打ちのストイックなビートで延々と進んでいく感じは無駄がなくて好感が持てますし、そもそも訴えたいことなんて何もなくて空虚。その暴力性、聴き手を突き放したような感じが石野卓球の真骨頂のような気がします。自分のために音楽をやっている。決して寄り添わない。電気グルーヴはちょっと違いますが。

 

意味なんてなくて時代なんて追わない。そもそもそうした言説を真っ向から否定している。その辺りの厭世的な感じが孤高だし、おっかない人ですね。

ビル・エヴァンス『Unknown Session』


しばらくジャズから耳が遠のいてしまっていますが、マイルスとビル・エヴァンスだけは別で、コンスタントに掘り起こしています。本作は62年録音。同時期の『インタープレイ』と若干メンバーを変えて録音されたもので、長らくお蔵入りしていた音源とのこと。メンバーは下記の通りです。

 

ビル・エヴァンス(p)

ズート・シムズ(ts)

ジム・ホール(g)

ロン・カーター(b)

フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

 

インタープレイ』ではフレディ・ハバートがtpで入っていましたので、そこがズート・シムズに変わった形ですが、ズート・シムズも割と気に入って聴き進めようと思っていたプレーヤーなので、ここでの参加は嬉しいところです。

 

結構な豪華メンバーですが、この作品は聴こうと思っていた『インタープレイ・セッションズ』と内容が重複しているようなので、ここで聴けて良かった。どの曲もお蔵入りには勿体無い出来ですが、若干のラフさも感じられます。でもそこも含めていい演奏ですね。ビル・エヴァンスはピアノトリオの演奏がメインなので、こうしたホーンやギターも入ったセッション音源はそれだけで貴重。楽しく聴き進めることができました。

マイルス・デイヴィス『At Plugged Nickel, Chicago』


65年録音のこのライブ演奏は元々はVol.1とVol.2に分かれてリリースされていた作品です。2枚組の中古を見つけたので今回手に取りましたが、これは本当に凄い演奏。満を持して参加したウェイン・ショーターを抱える壮絶なクインテットです。パーソネルは下記の通り。

 

マイルス・デイヴィス(tp)

ウェイン・ショーター(ts)

ハービー・ハンコック(p)

ロン・カーター(b)

トニー・ウィリアムス(ds)

 

何が凄いってトニー・ウィリアムスのドラムが凄いんですが、この時期のマイルスは『カインド・オブ・ブルー』で確立したモード路線と『ピッチズ・ブリュー』に代表されるエレクトリック・マイルスの狭間に当たるような時期で、なんとなくこれまで見過ごしてきてしまいました。その間をつなぐ上で一番重要なプレーヤーがトニー・ウィリアムスで、この刺激的な演奏は他の追随を許さないと思います。

 

とにかく早いんですが、『フォア&モア』でも驚いた「So What」や「All Blues」の演奏がここでも早い早い。もはやテーマもそこそこに勢いで突っ走る様はまるで別人格を見ているかのようです。短期間でのこの変貌に当時のリスナーは果たしてついていけたんだろうか。

 

ウェイン・ショーターの演奏も地中から這い上がってくるかのようで、全体的にも不気味な迫力が漲っていますが、聴いた感触がなぜか爽やかなのは気のせいでしょうか。そこには実はハービー・ハンコックの貢献があるように思います。

双六亭『双六亭漂流記』


最高最高!密かに待ち望んでいた双六亭の2ndがリリースされました。傑作ですね。カーネーションが90年代に置き忘れてきたもの、あるいはなかなか新作が出てこない青山陽一のエッセンスを継ぐものとして燦然と輝く素晴らしい作品に仕上がっています。

 

白眉は3曲目の「さてもさても」で、イントロからして煌びやかに始まってアーシーかつ躍動的なリズム、全体を彩る楽曲の押しの強さ、と文句なしの出来。こんな感じの曲が次々と続いて全編最高の出来栄えです。

 

遺伝子としてドラマーの中原由貴がカーネーション青山陽一の作品に参加していたことも大きい。そのグルーヴをベースにしながら今回は楽曲の質がとても良い。この感じはカーネーションが3rdアルバムの『エレキング』で突き抜けたような衝撃に似ています。

 

タマコウォルズで登場した時も筋がよかったですが、双六亭に変わってやっと羽ばたいてくれた。そんな気がする新作です。これは売れてくれるといいなあ。

ジェームス・ブラウン『Raw Soul』


JBのアルバムというのは寄せ集めのものが多くて、基本的にはシングル盤を中心に活動したミュージシャンという印象が強い。そのため自分もアルバムは一部の作品にとどめて、コンピレーションやライブ盤などをこれまでは聴いてきました。

 

とはいえ折角安く再発されているため、折に触れて聴いていこうと前々から思ってはいたので、まずは今回67年リリースの本作を手に取った次第。時期的には「コールド・スウェット」直前にあたります。

 

やっぱりちょっと音が古い。加えて酷い音質のライブが1曲だけ入っていたりと、かなりのカオス状態です。そんな中でもグルーヴ完成直前の雰囲気や、凡庸といわれるバラードも言われる程悪くないなあ、などと思いつつ比較的楽しんで聴くことができました。

 

ただ、JBを理解するのにここから入るのはやはりあり得ないので、アルバムを聴き進めるのは色々と聴いてからの方がやはりお勧めです。

吉田美奈子『TWILIGHT ZONE』


77年リリースの吉田美奈子4作目。吉田美奈子もずっと聴かずにきましたが、ここ最近山下達郎を一気に聴き進めたこともあって、自然と耳がこちらに向いてきました。

 

「恋は流星」が入っていることで再評価が高まっているアルバムですが、勿論その曲は最高。加えて全曲初めて自作で、かつ山下達郎との共同でのセルフ・プロデュース。これは確信を持った音が鳴り響いています。

 

70年代の山下達郎の音がしている点も大きくて、浮遊感のあるソウル・ミュージックが次々と繰り出されていく。これは結構堪らないな。素晴らしい作品です。これを聴かずにここまできてしまったとは・・。

 

ローラ・ニーロ的な風情もあるのは、双方ともソウルに傾倒しているからでしょうか。それぞれボーカリストであることも大きい。ピアノの音に寄り添って静かな曲を歌う佇まいも少し似たものを感じます。

 

吉田美奈子の作品群は初期作品から順番に聴き進めていく形となっていますが、これはそのうち聴き固めした方がよさそうですね。ここへきてまたいい音楽を発見できたのは嬉しい限りです。