トーマス・ウォルッシュ『The Rest Is History』


XTCの弟子筋にあたるパグウォッシュというバンドのリーダー、トーマス・ウォルッシュの1stソロ作品。ひっそりと昨年2023年の末にリリースされていたようで、恥ずかしながら知りませんでした。パグウォッシュは自然消滅したかと思っていたのでこれは嬉しい出来事です。

 

内容は相変わらずメロウでポップ。XTCというよりジェフ・リンやポール・マッカートニーまで遡ってしまうような出来栄えですが、XTCの『スカイラーキング』に入っている大好きな曲「Earn Enough For Us」にそっくりの「All This Hurt」みたいな曲も入っていて非常に楽しい。

 

パグウォッシュはこの辺りのオマージュ具合が行き過ぎて少し詰めが甘い感じも見受けられたので、今回のスレスレな感じは良いですね。とにかくこうした人はいてくれないと困る。XTCが好きな人は皆そう感じていると思います。

アンディ・パートリッジ&クリス・ブレイド『Queen of the Planet Wow!』


アンディ・パートリッジの新作がリリースされました。クリス・ブレイドという人と一緒に制作をしているという噂は伝わってきていましたが、6曲入りのミニ・アルバムとしてのリリース。

 

タイトル曲がジャジーな印象だったのでどうかと思いましたが、1曲目の「I Like Be With You」からして非常にいい曲。今回はメロウな路線なんですね。何となくアンディ・パートリッジはバート・バカラックみたいになってきたなあ。『ノンサッチ』の頃に確立した「Wrapped in Grey」の20年代路線をよりポップにしたような感じ。

 

アンディのここ最近の活動は誰かパートナーと組んで一緒に作品を作り上げるパターンになってきていますが、そもそもXTCの時だってコリン・ムールディングと一緒に制作していた訳なので、単独では活動しにくい人なのかもしれませんね。

スクイーズ『live at the royal albert hall』


95年にリリースされた『リディキュラス』というアルバムのツアー時のライブ音源が、その後にシングルカットされた作品群のボーナストラックに収録されていて、それらを日本独自編集盤として来日記念で97年にリリースした作品がこれ。ちょっとややこしいですが、要するにライブ音源の抜粋となります。

 

ライブで演奏された楽曲のごく一部を聴くというスタイルはかつてのライブアルバムではよくあったことですが、現在は比較的全体を収録した作品が多くなっています。配信でリリースされているパターンもありますし、フィジカルではボックスセットも組まれている。それでも熱心なファン以外はあまり手を伸ばさないのが実情でしょう。

 

とはいえ、最近はライブ音源の魅力にようやく気付きつつあって、ここのところこうした作品に手を伸ばすことが多くなりました。ライブは生き物なので、その時点でのドキュメンタリー性もありますし、演奏に勢いがあるとそれだけで嬉しい。スクイーズは演奏力も高いのでこうした音源も安心して聴けますが、やはり完全版を聴いてみたいと思わずにはいられませんね。それにしても会場の観客が一緒に歌っているのが凄い。

キャプテン・ビーフハート『The Spotlight Kid』


キャプテン・ビーフハートのこの72年リリース作品は、比較的初期に手に入れたアルバムでした。理由はひとえにビートクラブでの映像が原因だったと思います。とにかくここでの冒頭曲「I'm Gonna Booglarize You Baby」は強烈だった。

 


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本作は2014年にタワーレコード限定で国内再発されたCDですが、発売時は非常に迷って購入しませんでした。同時期にこの時期の作品の再発ボックスが出ていて、そちらを手にしたんですね。しかし、そこでの本作のラスト曲「Glider」の最後の音がぶつ切れになっていたのが残念で仕方ありませんでした。

 

で、こちらはどうかというとやはり同じでした。これは同じマスターなんだと思いますが、全体的にいい音でリマスターされているので、この点のみが非常に残念です。そこを除いてはほぼ最高。渋くていい曲ばかりの作品です。

XTC『LIVE IN BRUSSELLS 1982』


XTCのライブ音源がまたもやリリースされました。どんどん出てくるなあ。こちらはベルギーでの1982年3月7日の音源。以前にリリースされたオランダでの公演が3月8日だったのでその前日ということになります。ちょうど今3月なので42年前ということになりますが、音は古びていないですね。

 

2月に『English Settlement』がリリースされた直後のツアーからのもので、かつ翌月にはアンディ・パートリッジが倒れてしまって、以降XTCは一切ツアーを行わなくなってしまう。その直前のタイミングでの貴重な音源ということになります。

 

オランダでのライブ音源を聴いた際には、前半の『English Settlement』からの楽曲と後半の演奏し慣れた過去作品からの楽曲に温度差があるように感じましたが、ここでは左程でもなく、どちらも演奏が熱い。特にリードトラックの「Senses Working Overtime」での盛り上がりは素晴らしいものがあります。

 

観客の悲鳴も聞こえて来ますが、これは果たして本物の歓声なのか?と思う程凄まじい。人気が絶好調になる直前のタイミングだったので、この後アンディが倒れてしまったのは非常に惜しいですが、しかしこれは過剰なツアーを強いたレコード会社の責任ですね。

 

演奏楽曲はオランダ版の方が多いので、こちらはラジオ局が放送用に編集して1時間弱にまとめたものなんでしょう。コンパクトで聴きやすいですし、音質もそこそこ。それ以上にこの時期のライブはドキュメンタリー性を持っているので、記録として貴重ですし、XTCの光と影に思いを馳せるためにも絶好のアイテムです。

 

当時の様子をXTCのアンディ、コリン、デイヴの3人が語っているインタビューがXTC本の『XTCソングストーリーズ』に掲載されていますが、本当に当時は過酷だったんだろうなあ、という感覚が伝わってきます。1982年の前半はその瞬間を切り取っている訳ですね。

高橋幸宏『Fate of Gold』


95年リリースのこの作品は比較的聴き返すことの多い作品でした。意外といい曲が多くて、生楽器の比率が高いのもポイント。これ以降、スケッチ・ショウや『Blue Moon Blue』でのエレクトロニカ路線で復活するまでは若干低迷気味の時期を過ごしていた感覚ですが、そんな中でもリリースされている作品はしぶとくて力強い。

 

本作の前にスカパラとのコラボ・シングルをリリースしているところも大きくて、この辺りで後輩たちから元気をもらって活性化していたんじゃないかなあ。本作では「Flash Light」という曲がスカパラとの演奏曲となっています。

 

それから意外と見逃せないのが「さえない気持ち」という曲。この曲のイントロでギターを弾いているのは鈴木茂に違いない。まるではっぴいえんどの「十二月の雨の日」のような泣きのギターが炸裂していて、これは非常にいい曲です。ここは結構見落としがち。自分も最近まで気づきませんでした。

 

鈴木慶一との90年代ビートニクスの変装形もしっかり2曲ほど押さえられていて、全体的に多彩でいい曲の多い作品です。これは聴かないと勿体無いアルバムですね。

高橋幸宏『Mr. YT』


お陰様で今回の再発で定期的に高橋幸宏さんを追悼できる日々が続いています。3部作を中心にこれまでなかったくらいEMIイヤーズの作品を聴いてるんじゃないかなあ。改めて聴くと本当にいい曲が多くてびっくりしています。この魅力に気付くのが遅かった・・。

 

本作は94年のリリース。間にYMO再結成という狂騒があって、それを踏まえた変化があるかというと、デジタルの押しが強い音になっている点に若干の変化が見受けられます。前作がカントリー・テクノだったので、そこからは結構印象が異なる。

 

とはいえ日本語ポップス路線、というよりAORのような趣の大人の音楽といった方向性は変わらず、急に路線変更が行われるわけではない。相変わらず鈴木慶一とのコラボレーションも続いていて、90年代のビートニクスの変装形は継続中です。スティーヴ・ジャンセンとの共作も入っていますね。

 

ジャッケットがファッション雑誌のような感じなので、高橋幸宏さんという人は実は音楽とは別のところにモチベーションがあった音楽家だったのではないか、あるいは複数の回路を持ったクリエイティヴを持続していた方なのでは、といった感触を持ち始めているところです。