XTC『Rag & Bone Buffet』

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XTCのいわゆるB面集。シングルのB面やカップリング曲を集めたコンピレーションで、80年代にリリースされた正規録音版でアルバム未収録の音源は、変名バンドも含めてほぼ網羅されています。

 

ここからもこぼれ落ちる音源もあるにはありますが、それらはCD化の際のボーナストラックや昨今のブルーレイとの2枚組再発でフォローされているので、おおよそはカバー出来ます。難点は音圧が低いことかな。

 

リリース時には既に様々な形で収集した後だったので、左程新鮮味を持って聴くことはありませんでした。それでもこうした落穂拾いには価値はあります。『English Settelment』の頃のB面曲、「Tissue Tigers」や「Blame The Wether」「Punch And Judy」なんかを初めて聴いた時には卒倒しそうになりましたね。懐かしい。

 

Three Wise Men名義のクリスマス・シングル「Thanks For Christmas」や鈴木さえ子にアンディ・パートリッジが提供した「Happy Families」のXTCバージョンなど、押さえている範囲は広くて丁寧。それだけに音の悪さがつくづく残念です。冒頭の「Extravert」なんかを12インチシングルで聴いた時の衝撃は、もっといい音じゃないと感動は半減すると思います。

 

全24曲、70分以上の至福の時。リマスター再発は難しいだろうなあ。

XTC『Wasp Star (Apple Venus Vol.2)』

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2000年にリリースされた今のところXTCの最新作にしてラスト・アルバム。ここからもう20年以上経っているなんて信じられません。

 

前作が『Apple Venus』のアコースティック・サイドだとすると、こちらはエレクトリック・サイド。元々は2枚組でリリースされる予定だったものが2枚に分割されました。ここで出てきたのはギターが快調に鳴り響くポップスで、ここにはかつてXTCに期待した音が鳴っている。この地点に戻ってきてくれたことに当時は感謝していました。

 

しかし、ここにはもうデイヴ・グレゴリーはいないし、ライブ活動をやめているので箱庭感はどうしても拭えない。かつてムーンライダーズがライブで息を吹き返したように、ある一定のプレーヤーとしての現役感覚復活による効果がバンドには見込めるんですが、XTCにそれを求めるのは野暮というもんでしょう。

 

やっぱりアンディ・パートリッジの曲がとっても良くて、連続畳み掛けの楽曲群が耳を責めてくる瞬間が何度も味わえます。冒頭の「Playground」「Stupidly Happy」もそうだし、未発表曲の中で正規版で録音するのを待ち望んでいた「I'm The Man Who Murdered Love」から「We're All Light」へのつながり、更に後半には「You And The Clouds Will Still Be Beautiful」から「Church of Women」へと繋がる流れ。完璧ですよね。

 

『Nonsuch』での「Wrapped In Grey」「Rook」といった静かな楽曲から『Apple Venus Vol.1』に発展していく展開に、アンディ・パートリッジの興味の対象が通常のポップスから離れていったように感じていた中でのこの原点回帰的なギター・ポップスへの帰還は、今後のXTCへのささやかな期待感を煽るのに充分な要素を持っていた。しかしそれは現在のところ叶ってはいません。

 

メンバーは全員まだ健在だし、昨今はそれぞれ音楽活動もまた活発になっているので、後は心理面のハードルだけ。しかしここを乗り越えるのは難しいんだろうなあ。一縷の望みを心に秘めつつ、残してくれた作品を味わうことにするしかないのでしょう。そんな感じかな。

XTC『Apple Venus Vol.1』

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99年リリースの荘厳な作品。7年ぶりに出る新作、ということで発売当時は会社の帰りに購入してCDウォークマンで山手線の中で最初に聴きました。それで出てきたのが水滴の音と弦楽器のピチカート。始まった音楽はオーケストラ、ということでこれは驚きましたねえ。XTCがこんなことをするのか、という意外感と、そうは言っても複雑な音の洪水。なんといっても冒頭の「River of Orchids」のインパクトは強烈です。

 

音の配置で徐々に形が形成されていくスタイルは後のコーネリアスの音楽にも若干の類似性が見出せますが、やはりアンディ・パートリッジは紡ぎ出す各々のフレーズ、それはリフであってもボーカルであっても、ひとつひとつが非常にポップなので、それらが組み合わさって交互に登場して全体を作り上げていく様が、とてもマジカルになります。

 

このアルバムはその「River of Orchids」とポップな「Greenman」、そして「Harvest Festival」、この3曲で決まりでしょう。後は全体の雰囲気を楽しめばいい。

 

元々次作の『Wasp Star』との2枚組で構想されていて、こちらがアコースティックサイド、もう一方がエレクトリックサイドとなる予定だったものが分割されて発売された、ということで「まだ次があるんだ」という期待感を残してのリリースでしたので、楽しみがこの時点ではまだ残っていた。でもXTCはこの2枚で終了してしまいました。

 

このオーケストラによるアプローチに反発して録音中にデイヴ・グレゴリーが脱退。ついにXTCはアンディ・パートリッジとコリン・ムールディングの二人になってしまいました。そして、今はコリンもいない。アンディはやっぱり面倒くさい人なんだろうし、バンドという形態で音楽を続けるのは難しかったんだと思います。一人で続けるユニットもあるんだから、単独でXTCを名乗ればいいんですが、それは何故かやりません。何か理由があるんでしょう。

XTC『The Big Express』

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84年リリースの7作目。このアルバムもよく聴きましたが、やはり今ひとつ煩めなのと、硬質な音の質感が若干耳を遠ざけたことは否めません。それでもやっぱりこの時期のXTCは神がかっているので全てが名作。冒頭の「Wake Up」からして音の仕掛けを施して聴き手を翻弄してくれます。基本的にはXTCメンバーの故郷の街スウィンドンのことを歌ったアルバム。鉄道の街なんですね。

 

一番好きなのは「I Bought Myself A Liarbird」という曲。こうした小品が自分はどうしても好きなんですが、本当に恍惚感一杯の一瞬で終わってしまう曲で、まさにマジック。何度も言いますが本当にアンディ・パートリッジという人は天才だと思います。

 

ボーナストラックでは「Red Brick Dream」という弾き語りのような、夢の中で歌われているような作品が極上です。この頃はアナログの12インチシングルのB面にこうした未発表曲が収められていました。血眼でレコード屋を探したもんです。

 

この作品と『Mummer』『English Settlement』の3枚の作品はマスターテープが見つかっていないそうで、スティーヴン・ウィルソンのリミックスによる再発が出来ずにいるようです。これは非常に残念。探すのにもお金がかかるので、経済的な問題もありそうですが、いつの日か日の目を見てほしい。フランク・ザッパなんかでもよくあるケースですが、これは長い時間がかかりそうです。気長に待つしかなさそうですね。

XTC『Mummer』

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ここからしばらくXTCの聴き直しに入ります。まずは83年リリースの6作目。

 

この作品は自分がXTCをリアルタイムで聴き始めた頃のアルバムなので非常に思い入れも深い。結構地味な作品と言われてていますし、この頃からXTCはライブ活動をやめてしまったので、かつてのパンク然とした勢いは失われつつあった。ライブ活動を行わなくなったことでドラムのテリー・チェンバースはこのアルバムの録音中に脱退してしまいます。

 

そんなネガティブな話題を吹っ飛ばすくらいの楽曲のクオリティがこの作品にはある、そう確信しています。当時は坂本龍一サウンドストリートでこのアルバムのリードトラック「Wonderland」をよくかけていました。高橋幸宏はイギリスにソロアルバムを録音しに行った際に、XTCのアコースティックへの音の変化を時代の次の潮流として語っていた。XTCは当時からミュージシャンズ・ミュージシャンだった訳です。

 

前作が『イングリッシュ・セトゥルメント』ですので、曲作りは絶好調。特にやっぱりアンディ・パートリッジが神がかっていますね。

 

XTCの音楽の中では比較的例外にあたるジャジーな雰囲気の「Ladybird」という曲が収録されているんですが、これが素晴らしい。もうこれ以上ないでしょ、というくらい洗練された静かで複雑で綺麗な曲で、当時のアンディの好調さを裏付けていると思います。

 

このアルバムはボーナストラックも凄くて、これを聴くために自分はCDプレーヤーを購入したほどです。具体的には「Jump」「Toys」「Desert Island」、この3曲を掘り当てた時には狂喜乱舞しました。こんなクオリティの楽曲をアルバムに入れないなんて信じられない。XTCはだから凄いんです。

 

アコースティックな音に振り切った作品ですが、傾向は前作からあった。白井良明のいうアコギのオーケストレーションですね。その片鱗はこのアルバムにもありますが、何かもっとオーガニックな魅力がここでは増している。表舞台から退いて本当に素敵なことだけを突き詰めた結果、スティーヴ・ナイのプロデュースと相まって孤高の作品を作り上げた。そんな感じかな。

XTC『Oranges & Lemons / The Surround Sound Series』disc 2 『Extra Demos And Work Tapes』

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付属のブルーレイには沢山のコンテンツが入っていて、とても一度には聴ききれないですが、やはり一番の目玉は未発表曲集ということで、ここだけでも18曲も入っています。

 

『Oranges & Lemons』の頃はCDシングルがリリースされて、その中に何曲かデモトラックが収録されていました。ここにも入っている「Living In A Haunted Heart」や「My Paint Heroes」なんかは本当によく聴きましたが、やはり一番クオリティにびっくりしたのは、アルバムリリース後にXTCアメリカのFM局をまわって行ったアコースティック・ライブの音源でした。

 

今度正規盤としてリリースされますが、当時はブートで聴くしかなかった「Blue Beret」という曲。その後アンディ・パートリッジのデモ音源集『Fuzzy Warbles』でも収録されますが、この圧倒的な曲の良さには痺れました。これはやっぱりライブ・バージョンが極上ですね。

 

『Fuzzy Warbles』が出る前にやはりブートで出回っていたデモトラックの中で抜群に素晴らしかったのが「Everything」という曲。ここにも収録されていますが、この辺の素晴らしい楽曲を未発表にしてしまうところがXTCの魅力でもあります。本当に天才なんだ、アンディは。

 

このディスクではコリン・ムールディングのデモも収録されているので初めて聴く曲もありましたが、中でも後に『Wasp Star』で日の目を見る「In Another Life」が既にこの時点で存在したことに驚きを隠せません。

 

そんなこんなで楽しめるボーナスディスク。やはりここでも老後の楽しみは5.1chミックスということになりますが、果たしてシステムを揃える日は訪れるのだろうか。最近は人生を逆算することが増えてきました。

XTC『Oranges & Lemons / The Surround Sound Series』disc 1

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89年リリースのこの作品は、発売当時何度聴いたか分からないくらい聴き込みましたので、既に自分の体の一部のようになっています。

 

2015年にスティーヴン・ウィルソンのサラウンド・ミックスによる再発がなされた際には、ブルーレイ・ディスクがソニー製で再生できないために一度は購入を見送りました。その後も問題は解決していないんですが、買うだけは買っておいた上、結果的にPCのフリーソフトであっさり解決したので、改めて聴き返すことにした次第です。

 

まずはスティーヴン・ウィルソンによる2015ミックスから。例によってオリジナルにあったクロスフェードを行わずにそれぞれの楽曲を単独で分離して収録しているので、あの畳み掛けるようなポップ・ワールドは大分世界観を削がれてしまう。それでも恍惚感は維持しているのは、ひとえに楽曲のもつパワーによるところが大きいと思います。

 

音圧は控えめなので左程耳に迫っては来ません。加えて、このミックスで新たに聴こえてきた音というのも今回は控えめだと思います。やはり『スカイラーキング』が衝撃的だったので、そこと比較するとオリジナルに近いミックスになっていると思います。それはいいことですね。

 

恍惚感の正体はベースラインにあり。どの曲でも動き回るベースの旋律が印象的ですが、最もすごいのはやはり「One of The Millions」でしょう。コリンの曲ですし。しかし「Poor Slelton Steps Out」のようなアンディの曲でも圧倒的にベースラインがそそります。この辺りが飽きない理由なんだろうなあ。冒頭の「Garden of Earthly Delights」でもラストのテンポが変わった後のサイケデリックなベースラインが一際目立っているので、結局ここに極まれり、といった感じです。

 

しかしそれにしても素晴らしい曲が多いアルバムです。目眩くポップ・ワールドは当時からその輝きを失っていませんが、ライブ活動をやめて以降、「箱庭的」と揶揄されることもXTCは多かった。それでもこのスタジオ黄金卿時代の作品は、この時点でかなりのところまで行っていて、他の追随を許さなかった。

 

当時アメリカに渡って録音したのも大きかったはずで、呆れるほどのいいお天気にアンディもびっくりしていたようです。結果的にかなり開放的な作品が出来上がった。これは気候と無関係ではないでしょう。

 

デュークスを経て制作された作品であることも大きい。サイケデリックなテイストが血肉化されていて、かつそこを突き抜けて弾けた音になっているところも素晴らしい点だと思います。ジャケットを批判する方もいましたが、いやいやどうして、これくらい弾けてもいいでしょう。最初に見た時はこの明るさが本当に嬉しかった。コンスタントにXTCが作品をリリースしてくれたのはこの辺りまでなので、思えば短い夢でしたが、こうして作品は永久に残されていく。その恍惚感はパッケージされて色褪せない。という感じかな。