カーペンターズ『Twenty-two Hits of The Carpenters』


通勤の際にアルバム単位で音楽を聴いていると途中で終わってしまうことが多いので、シャッフル再生やベスト盤で聴いていることが多いんですが、比較的アルバム単位で持っている作品が多いので、実はベスト盤はあまり持っていないことに気付きました。ということで、少しベスト盤にも目を向けてみようと思い手にした作品です。

 

カーペンターズのベスト盤は以前にレンタルで手にしたことはありました。それがこの作品だったと思います。95年にリリースされているんですね。全22曲、どれもいい曲ばかりです。

 

カーペンターズはとても良質なポップスですが、どちらかというとソフト・ロックとして聴いている感覚でした。実際にポール・ウィリアムスとロジャー・ニコルズが手がけた楽曲も多くて、それが実際にヒットしています。楽曲は転調も多くて、結構複雑なコード進行に見事なメロディが乗せられていく。それでいて聴きやすいというのがポイントです。

 

あとはやっぱりカレン・カーペンターの歌声。結局はこれに尽きると思います。元々がドラマーというのも何ともカッコいいですが、歌声もこねくり過ぎずに素直で清涼感があって、しかも歌っている楽曲がいい曲ばかり、というのが奇跡的だと思います。

細野晴臣『Yours Sincerely』


細野晴臣の新譜が出ました。毎回、「これが最後かも」と思って聴いているので、今回もじっくりと耳を傾けて音に向き合っています。

 

音の質感は80年代後半のモナド・レーベルや90年代のアンビエントの時期に近いもので、『COINCIDENTAL MUSIC』や『MEDICINE CONPILATION』のような、あるいは同時期の映画音楽のような趣のある静かな音楽です。

 

1曲目の「Note of Mothership」からしてそうですが、とても優しい音。メッセージや音の包み込み方が優しくて、天国で音を鳴らしているような感覚があります。既に御歳79歳ということで、もう天使になっているのかもしれません。

 

WORLD HAPPINESSで観たライブも優しい音でしたが、ブギウギをはじめとしたライブ回帰を通りぬけて、打ち込みの内省的な、というより室内楽的な音にまた戻ってきているような気がします。ライブで『オムニ・サイトシーイング』の収録曲「プリオシーヌ」を演奏していたのも頷けます。

 

聴いていると昭和初期や大正時代のモダンな音楽を聴いているような感覚になって、耳が時空を超えてしまいます。収録時間も26分ほどと短いですが、随分と長く聴いていたかのような気持ちにさせてくれる不思議な音楽です。

マイルス・デイヴィス『Nefertiti』

60年代のマイルス、特にウェイン・ショーターが参加した頃のマイルス・デイヴィスの音を何故かずっと聴いてこなかったので、この辺りの作品がミッシング・リンクになっていたんですが、マイルス生誕100年のタイミングで色々と出ている書籍などを読んで、この頃の作品に俄然興味が湧いてきました。

 

特にこの『ネフェルティティ』という67年の録音作品は、この時期のメンバーの金字塔のような扱いとなっていて、ここはやっぱり聴いておかないと、と思って手に取った次第です。メンバーは下記の通り。

マイルス・デイヴィス (tp)

ウェイン・ショーター (ts)

ハービー・ハンコック (p)

ロン・カーター (b)

トニー・ウィリアムス (ds)

 

トニー・ウィリアムスのドラムが切り込んでいく比較的煩めの音を想像していたんですが、予想に反して結構静かな音楽でした。ここでの音楽はとてもクールで、メンバーの勢いのある演奏も全て静謐な世界にパッケージされている。それはおとなしいのではなく静かな熱気に満ちているような、迫力のある演奏でした。これはカッコいいな。

 

『In A Silent Way』までいくともっと哲学的になっていくような趣がありますが、まだこの時点では熱量の方が優っている。そしてエレクトリック・マイルスになる直前の、熱量がありながらも従来の器楽構成で押すところは押しながら佇まいは静かに迫ってくる、独特の熱気が感じられる音でした。やっぱりキーになるのはドラムなんだろうな。

オリジナル・ラブ『Love Jam』


2016年に開催された田島貴男主催のイベントのライブ映像です。DVDが出ていたことは知っていましたが、今回初めて手に取ってみました。これは最高!

 

当時の最新作は『ラヴァーマン』ですが、ここで既に現在に至る覚醒が始まっている。25周年を迎えて吹っ切れたのか、かつての楽曲を披露するのにも衒いがなくなって、むしろ今の時代にアップデートしていくかのような勢いを感じます。ここで表現されているのはノスタルジーではない。

 

冒頭から「心理学」で始まって「灼熱」「月の裏で会いましょう」と続いていく流れは圧巻で、グルーヴも最高です。これはドラマーがいいんだな。この時点で既に10年前。ここからオリジナル・ラブは更なる復活を遂げて今も絶好調が続いています。これは非常に幸せなことで、いつまでも続いて欲しいと心底思っています。

オリジナル・ラヴ『キングスロード』


06年にリリースされたオリジナル・ラヴの洋楽カバー集。このアルバムだけ何故か手を出さずに来てしまいましたが、やっと手に取ることができました。

 

シングルのカップリングになっていたレオン・ラッセルのカバー曲「青い鳥」が抜群の出来です。ここでの艶っぽさと演奏と一体になったうねりのようなもの、初期にあったグルーヴ感が、ここ最近の吹っ切れた活動では存分に発揮されているので、田島貴男はこれからも安心なんですが、この頃はまだ迷いが感じられました。

 

とはいえ、これで既に20年前、ということでかなり昔の出来事です。世紀が変わってからは文化の更新がなされることはなく一直線でここまで来ているという砂原良徳と小山田圭吾の対談での分析はおそらく正しくて、時代としては2000年以降変わっていない。

 

ただ、オリジナル・ラブの場合は年齢的な要因もあって、2011年の「白熱」あたりから、あるいは2015年の「ラヴァーマン」あたりからモードが変わっているので、過去を踏まえた「次」の時期に差し掛かっています。これが素晴らしいことですね。

ムーンライダーズ『" It's the moooonriders " Album Release Show 2022.9.24』

今回の新作はデラックス・エディションとして『It's the moooonriders』リリース記念ライブ映像との2枚組が出ています。このライブには当時も参加しましたが、こうしてパッケージ化してくれて嬉しい限りです。

 

このライブはまず冒頭の意外性でやられてしまった。これが全てだったかもしれません。楽曲は収録曲の「monorail」から始まるんですが、鈴木博文がピアノに向かって演奏します。その後、流れるように「ボクハナク」に移っていく。このオープニングで誰もがやられてしまうでしょう。鈴木博文のボーカルは年々良くなっている気がしますが、ここでも絶好調。

 

基本的に新作リリースのライブなので、新しい曲が中心の構成ですが、「夢ギドラ85'」や「D/P」といった綺麗な曲も時折挟み込まれていて、キャリアの長いバンドならではの懐の深さを感じさせてくれます。

 

そしてラストの「私は愚民」ではアウトロのインプロヴィゼーションも再現してくれて、ここが次作の『Happnings Nine Months Time Ago in June 2022』にも繋がっていきますが、時系列的にはこのインプロヴィゼーション・アルバムの収録の方が先で、今回のライブの方が後ということになるんですね。これは気がつきませんでした。というより、このライブの時点でそんな前衛的なアルバムをリリースするなんて想像もつきませんので、当たり前かもしれませんが、これにはちょっと驚きました。

ムーンライダーズ『e.d morrison』


50周年を迎えたムーンライダーズが新譜をリリースしました。50年バンドを続けてまだ新作を出すなんてことはそうそうあるものではないですが、ストーンズもポール・マッカートニーも頑張っているので、日本ではムーンライダーズに頑張っていただくしかありません。まさに国内の至宝。

 

各メンバー1曲ずつの提供、しかも亡くなった岡田徹やかしぶち哲郎の楽曲まで掘り起こして収録しているという奇跡。ビートルズがジョン・レノンのデモ音源を掘り起こして新曲に仕立て上げるのと同じ手法を日本のバンドが実践する日が来るなんて信じられない。

 

タイトルからイメージするムーンライダーズの第7人格が出ているかというと、そういう感じでもありません。そもそも2011年の活動休止前の作品である『Ciao !』から顕著である、重厚な音楽性がここでも表面化している。音は重厚なんですが、音楽には70年代にあった無国籍感が漂っていて、極東から中東へ風が吹いていくかのような世界観が表現されています。

 

一つの楽曲を皆で色々とアップデートしていって、最終的には怪物のような音が出来上がっていく。その辺りのやり方は今現在のムーンライダーズの特徴になっていると思います。この重厚感、ある意味暗い感覚は時代を象徴しているとも言えるでしょう。