ジョン・ブライオン『meaningless』

丁度1年前にサブスクで聴いて「いつかはフィジカルで」と思っていた作品を目出たく入手しました。2001年に自主制作でリリースされて、その後2022年に再発されたジョン・ブライオン唯一のアルバムです。

 

ジョン・ブライオンという人はルーファス・ウェインライトフィオナ・アップルをプロデュースしたり、様々な映画音楽を手がけていたりする方なんですが、ソロ・アルバムとしては本作のみ。作品のリリース形態や活動の幅が謎めいていますが、楽曲そのものはメロディアスでポップです。

 

かつてジェイソン・フォークナーとバンドを組んだこともあったそうで、それは知りませんでした。ちょっと気になりますね。聴いていて確かにジェリーフィッシュのような感覚もありますが、最近たまたま聴き返しているワールド・パーティあたりにも近いな、と思いながら聴いていました。

 

とはいえ最初にサブスクで聴いた時のような感動は実は余りなくて、少し新鮮味が薄れてしまったように感じています。凝ったメロディは飽きも早いので、もしかしたらこの作品もそうなっていくのでは?などと一瞬思いましたが、端的にいい曲も多いので、もう少し聴き込んでから判断しようと思います。

脇田もなり『UNI』


元Especiaの脇田もなりがDorianの全面プロデュースで制作した2023年リリースの作品。こちらもNICE POP RADIOで紹介されて耳に引っかかっていた作品でした。その後サブスクで聴いたりもしていましたが、やはりきっちりと聴いておきたいと思った作品です。

 

感覚的にはPerfumeに出会った時に近い。Perfumeはバックに中田ヤスタカがついていましたが、同じ構図でこちらはDorianがついている。そしてどちらも電子音が主体です。

 

やはり圧倒的にアッポテンポの楽曲が良くて、タイトル曲の「UNI」や「La Shangri La」といった曲にはかなりの勢いとセンスを感じます。このテンポで1枚通しても良かったんじゃないだろうか。ググッと時代を押していくようなパワーが漲っていると思います。

 

Especiaは確か元同僚がはまっていて、随分前にSNSでその様子が伝わってきていた記憶がありますが、ちょっと少し聴いてみようと思っています。一十三十一が好きな人だったので、その流れの中にあるのではないかな。

 

収録時間が32分でバシッと終わるところも潔くていいですね。

ロックパイル『Seconds of Pleasure』


ロックパイルの80年リリース唯一のアルバムは、ニック・ロウの一連の再発を聴いていた頃に中古で手にしていました。内容はとても良かったんですが、音圧があまりにも低かったので、リマスター盤を探そうと思って、そこから軽く7年も経ってしまいました。しばらく前のスカート澤部渡さんのラジオ番組で本作の楽曲がかかったので、思い立って探した次第です。

 

久々に聴きましたが、やはりいい作品です。全般的に勢いがあって、音に魔法がかかっているかのようなセンスの良さ、鋭い演奏が繰り広げられています。デイヴ・エドモンズニック・ロウの2枚看板で結成されたバンドですが、やはりニック・ロウに耳がいってしまいます。

 

そのニック・ロウのソロアルバムにも収録されている「Heart」のロックパイル・バージョンは演奏のスピード感もあって素晴らしい。こちらの方がグッと来ますね。また「When I Write The Book」あたりの鋭いアコギのカッティングとリズム隊の切れ味も聴き逃せません。

 

やはり聴いていて思うのはドラムがいいんですね。ポリスもスチュアート・コープランドのドラムがなければ成立しないように、ここでもテリー・ウィリアムスのドラムがあってこそのロックパイルなんじゃないかと思います。とにかく演奏が素晴らしい。

 

ボーナストラックにデイヴ・エドモンズニック・ロウエヴァリー・ブラザーズをカバーした楽曲が入っていますが、この辺りの振る舞いは日本でいえば大滝詠一山下達郎の関係性を彷彿とさせます。同じくエヴァリーをカバーしている音源が残っていますね。どちらも仲良く楽しそうに歌っている様子がうかがえてとても微笑ましく聴くことができます。

ロバート・パーマー『Sneakin' Sally Thru The Alley』


ここしばらくピーター・バラカンのラジオ番組「ウィークエンド・サンシャイン」では74年リリース作品の特集を放送していますが、このロバート・パーマーの1stもそこで紹介された1枚でした。ロバート・パーマーはモデルを使った派手なPVやパワー・ステーションなどでの活動が印象に残っていたので余りこれまで聴かずに来てしまいましたが、この1stがこんなに渋くていい作品だったとは、恥ずかしながら知りませんでした。

 

約半数の楽曲がリトル・フィートローウェル・ジョージと共にニューオーリンズで制作されていて、共作曲も収録されています。バックの演奏をミーターズのメンバーが固めているので演奏もバッチリ。これは年代的にもリトル・フィートの作品と考えてしまっても差し支えないような出来栄えです。

 

半数はニューヨーク録音で、そこでもSTUFFのメンバーを従えての演奏なのでそれでも充分素晴らしいんですが、冒頭3曲の「Sailing Shoes」「Hey Julia」「Skeanin' Sally Thru The Alley」はメドレーになっていて、しかも録音がニューオーリンズとニューヨークで別々なものが繋げられている。なかなかスリリングですし、聴いていて違和感がなくてかつ楽しい、カッコいい、という素晴らしい作品になっています。これは凄い。

 

ロバート・パーマーのボーカルはまるでローウェル・ジョージのようで、かなり影響を受けて録音された作品であることが分かります。この路線で行っても良かったんじゃないかと思いますが、その後の活動はもうちょっとメジャーな方向に舵が切られていった。しかし、出発点としての作品があまりにも渋過ぎる、というのは非常にいい話だと思います。

 

ラストの「Through It All There's You」は12分越えの大作ですが、スティーヴ・ウィンウッドも参加した渋いセッション作品です。聴いていてこちらはPファンクを想起しました。

ヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレム『Can You Feel It』


74年リリースの2作目。たった1年でかなり成熟しているように聴こえます。1stの方が勢いがあったかな。

 

こちらもリロイ・ハトソンのプロデュースですが、やはりベースラインが聴きどころだと思います。リロイ・ハトソンはベースの音を聴くのがポイントかもしれませんね。このアルバムでもボーカルのメロディと一緒にベースラインを聴いていくと、意外な組み合わせが多くてとても興味深く聴くことができました。

 

1st同様収録時間は短くて31分ほどですが、1st程「もう終わっちゃうの?」といった感覚はありませんでした。裏を返すとインパクトが1stの方が強いんだと思います。もう少し聴き返してみないと分かりませんが、やはり2ndは落ち着き度合いが増しているのではないでしょうか。

ヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレム『The Voices of East Harlem』


先日聴いたリロイ・ハトソンのベスト盤をその後もずっと聴いていて、これはちょっと他の作品も聴かないと、と思っていました。唯一昔から持っていた国内盤のCDライナーノーツに関連作品としてこのヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレムとナチュラル・フォーというグループの作品が挙げてあって、早速中古屋で見つけたという次第です。

 

こちらは73年リリース作品。リロイ・ハトソンが作者、アレンジャーに名を連ねていますが、どの曲も非常にいい。これはもうリロイ・ハトソンの作品として聴いてしまって問題ないと思います。しかし、久々に2分くらいで終わる曲を聴きました。曲が短いのでトータルの収録時間も26分しかありません。どの曲も勢いがあって素晴らしいのでちょっともったいない気がします。

 

リロイ・ハトソンのどこが気に入ったんだろう、と昨日も聴きながら考えていましたが、恐らくはベースラインの格好良さとプレーヤーとしてのグルーヴにあるように思いました。よく名前を間違えるリオン・ウェアも久々に引っ張り出して聴き比べてみましたが、そちらはマーヴィン・ゲイの『I Want You』の作者でもあるので、もう少しメロウな感じがします。リロイ・ハトソンはそれよりももう少し演奏者の色合いが強い。やはりカーティス・メイフィールド寄りなんだと思います。

 

これはまたDig対象を見つけてしまった。もう少しリロイ・ハトソンは聴き進めてみようと思います。

大貫妙子『カイエ』

84年リリース作品。大貫妙子さんの聴き直しもここで終了です。

本作は同名の映像作品のサントラという位置付けですが、ご本人が映画音楽を作りたい、と希望されて、結果的に環境映像に対するサントラとして出来上がった作品です。

 

従って純粋な作品としては若干趣が異なりますが、並んでいる楽曲はジャン・ミュジーとのフランス録音の再演や毎回関わっている坂本龍一による編曲など、バラエティに富んでいて、聴いていて飽きがこない。楽曲は再演も多いですが、基本的に皆いい曲なので、とても心地よく聴き進めることができます。

 

今回、『ミニヨン』以降の作品はおよそ15年ぶりくらいにきちんと向き合いましたが、やはりどの作品もとても良かった。何より曲がいい。そして、編曲者がどんどん変わることで、聴いている方も美術館や博物館で作品を眺めているような楽しさが味わえる作品となっていました。

 

そんな中でも『クリシェ』の傑作度合いが群を抜いていましたが、初期2枚『グレイ・スカイズ』と『SUNSHOWER』が改めて脚光を浴びるのも理解できるような気がします。ここにはやはり初期衝動ならではの勢いや青春の煌めきがパッケージされていて、瑞々しい上に演奏力のあるミュージシャンの参加によるグルーヴもある。「もう一度あの頃のような作品を作って欲しい」と坂本龍一サウンドストリート大貫妙子に話していたのを思い出しますが、皆初期の頃の音楽が大好きなんですね。それが今現在また注目されているのはとても嬉しい出来事だと思います。

 

今年、大貫妙子フジロックに出演した際に、坂本龍一がトンボになって現れてマイクにとまった、という話がラジオでよく話されています。とても微笑ましいエピソードですが、たまたま今、毎週大貫さんの声がラジオで聴けるので、こうしたお話が身近に感じられる。これはとても貴重な時間を過ごせていると感じながら日々を過ごしています。