グレン・ティルブルック『In The Sky Above / The Demo Tapes 1993 - 1998』

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スクイーズのグレン・ティルブルックがデモ集をリリースしていたことは何となくは知っていましたが、今回その内の1枚を手にしました。これは第2集のようで、全部で5枚あるようです。

 

時期的にはスクイーズの『Some Fantastic Place』『Ridiculous』『Domino』の時期にあたる音源。『Some Fantastic Place』はリリースされた時から聴いていましたが、後の2枚は大分後になって聴いたので、昨日聴き返してみました。

 

それにしてもデモの完成度が高い。このままいけるんじゃない?と思わせるクオリティのものばかりで、非常に聴きごたえがありました。XTCのアンディ・パートリッジもデモ集で『Fuzzy Warbles』という作品集を出していますが、それと同等かそれ以上のクオリティです。

 

弾き語りが主力なのかな、と思って聴いてみたら結構キーボードもドラムも入っていて、アルバム収録バージョンとはまた別の魅力があって非常に良い。ムーンライダーズの『dis-covered』を聴いた時の感触にも似ていますね。

 

アルバム未収録曲も結構入っていてそれもまた格別なので、これはこのシリーズを探してまた聴かないといけないなあ。

ビル・エヴァンス『Interplay』

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62年の録音作品。これはいい、というより、これ「も」いいですね。

 

スコット・ラファロの事故死によるショックから復帰した62年はピアノ・トリオだけではなくセッションも比較的こなしていた年で、ここではトランペットにフレディ・ハバード、ギターにジム・ホール、ベースにパーシー・ヒース、ドラムにフィリー・ジョー・ジョーンズを迎えて演奏されています。

 

一番渋いなあと感じたのは2曲目の「星に願いを」のアレンジでした。有名なディズニーの楽曲ですが、主旋律を控えめな音のギターが奏でて、バックでピアノとトランペットが浮遊するといった非常に洒落た演奏。ここでピアノやトランペットが主旋律を担当しないところが渋いですね。地味だけどカッコいいなあ。

 

続く3曲目の「I'll Never Smile Again」も良かった。後半でフレディ・ハバードジム・ホールビル・エヴァンスが1小節ずつソロを回していく様子は聴いていてスリリングでとても楽しい。バックのフィリー・ジョーのドラムスもツボをついていてとてもいいです。

 

やはりこうした次々と主役が入れ替わる演奏は楽しいですね。マイルスのオリジナル・クインテットもそこが楽しいんだと思います。

ビル・エヴァンス『The Bill Evans Trio Live』

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ビル・エヴァンス・トリオ、64年のライブ作品。これもまたいい。本当にハズレがないミュージシャンです。

 

ベースはチャック・イスラエル、ドラムはラリー・バンカーということで、この編成での演奏も結構いいですね。先日聴いた『Trio '65』もそうでしたが、購入後によく聴いている『At Shelly's Manne Hole』もこのメンバーなので、当然と言えば当然。

 

演奏曲もお馴染みのものが多いですが、比較的ゆっくりとしたペースで演奏されているので味がある聴き心地となっています。演奏の奥行きが感じられる。

 

加えてやっぱりビル・エヴァンス・トリオの演奏はリズムの取り方が独特のように感じます。曲の解釈が非常に洒落ているのはピアノのフレーズだけではなく、リズムの構築具合にもよるところが大きいのではないかと改めて感じました。

KIRINJI『爆ぜる心臓 feat. Awich』

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前作『cherish』でバンド形態を終了し、堀込高樹のソロユニットとなったKIRINJIのニューシングルがリリースされました。漢字の読み方が何度見ても分かりませんでしたが、「はぜる」と読むようです。

 

バンド形態の終焉は『cherish』で行くところまで行ってしまった感があったので、何となく想像はつきました。ほとんどソロのような、クールなソウルミュージックを極めてしまった作品でしたので、果たしてこの後どこに行くんだろう、と少し心配していた。そこに飛び込んできたバンド形態終了のニュース。ただ、オリジナル・ラブコーネリアスもある意味同じようなソロのユニットですので、前例がない訳でもありません。

 

本作にも収録されている「再会」という曲が先に先行配信されましたが、この曲も今回じっくりと聴けました。これは再度名刺がわりで差し出された原点回帰の作品のように聴こえてとても良かった。バンド形態を開始した『11』の時の「進水式」のような爽快な1曲。『cherish』で突き詰めた隙のない音楽から、少しだけまた俗世間に降りてきてくれたような、陸へ上がって来たような、そんな予感を感じさせます。

 

「爆ぜる心臓」の方は80年代キング・クリムゾンのようなロック・テイストで迫って来ますが、ここは映画の主題歌というオーダーに応じた派手さ加減が効いているようにも感じます。いずれにせよ、ソロユニットとなってむしろバンド感が増すような、不思議な展開を見せている。しかし、それでいいと思います。

 

堀込高樹ドナルド・フェイゲンのようになって来ましたね。

クリフォード・ジョーダン『Bearcat』

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61年から62年にかけての録音作品。クリフォード・ジョーダンは以前に聴いていたかと思っていましたが、今回が初めてでした。とてもベーシックな感じがしていいですね。

 

録音が60年代に入ってきているので、音も左右に振られていたりしてスッキリと整理されて聴こえます。でも鳴っている音楽の方は比較的古いフォーマットに基づいているように感じる。とても安心して聴ける音でした。

 

ドラムが結構スネアをバシッと叩く感じなので、メリハリがあっていいんですが決してうるさくはない。絡んでくるピアノの音もいいですし、テンポが早い曲なんかでは十分にスピード感も味わえる。特に傑出した音が鳴っているわけではないものの、心地よく耳を捉える音楽です。

クロード・ウィリアムソン『'Round Midnight』

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クロード・ウィリアムソンの56年録音のピアノ・トリオ作品。非常にスピーディーな演奏で、収録曲数は12曲と比較的多めなんですが、曲が短いので全体的には38分程度の収録時間です。

 

印象としてはとにかくベースの音が太くて、ドラムの刻みもキレがいい。これはリズム隊が非常にいいですね。ベースはレッド・ミッチェル、ドラムはメル・ルイスのコンビですが、このリズム隊での作品を他でも探してみようと思います。

 

「Tea For Two」なんかでの非常に早いビートの曲では聴いていて自然に体が動くし、その圧倒的なスピード感につんのめりそうになります。これは失礼ながら主役のピアノを喰ってしまうくらいの勢いがありますね。

アンディ・パートリッジ『My Failed Songwriting Career - Volume 1 EP』

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出る出るといわれていたアンディ・パートリッジの他アーティストに提供してボツになった楽曲のセルフカバー集第1弾が発売されました。4曲入りでこの後Vol.4まで続くという嬉しい企画。どんな形にせよ、楽曲を世に出し続けてくれることに感謝です。ムーンライダーズも復活していますが、アンディ・パートリッジもこれを機に復活して欲しいですね。

 

ジャケットは日本のメンコを参考にしたそうで、よく見ると日本語の表記もされている。裏ジャケットにはタイトルの日本語訳なんかもあって、アンディ・パートリッジが日本を好きでいてくれることが伝わってきてとても嬉しくなります。

 

楽曲はポップ。特に2曲目の「Great Day」なんかはまるでポール・マッカートニーのようで、まだまだ健在、と思わせるクオリティです。全体的に後期XTCにあったような比較的シンプルな捻りすぎない感じの楽曲の雰囲気もあって、毎度のように一度聴いただけではなかなか捉えられない魅力を携えています。要するに「また聴きたくなる」ということですね。

 

こんな感じの連続技は以前のVol.8までリリースされたデモ集『Fuzzy Warbles』を想起させます。作品のリリースの仕方も捻くれていますが、それでもいい。期待して次のリリースを待ちたいと思います。