ビートルズ『Let It Be』Special Edition (Super Deluxe) disc 4

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グリン・ジョンズのミックスによって一度は出来上がった『Get Back』。メンバーの判断でお蔵入りになって、その後フィル・スペクターの手によって作り直されて『Let It Be』となる訳ですが、こちらはそのグリン・ジョンズによる原型がそのまま収録されているディスクとなります。

 

初めて聴きましたが、かなりラフですね。『Let It Be Nakid』よりもラフ、というよりリリースされなかったのが妥当だと思います。元々このゲット・バック・セッション自体をパッケージ化しようという意図のもと制作された、という意味では正しい録音かもしれませんが、最終形を耳にした後に聴くとやはりアウトテイク集に聴こえてしまいます。

 

メンバーの会話の中から音が湧き上がってくる瞬間もあってそれはそれでスリリングですが、作品としてはラフ過ぎて、特に69年の時点でリリースできたかというと、ちょっと難しい。ビーチ・ボーイズの『パーティ』みたいな作品はあったにせよ、やっぱりこれは出せないだろうなあ、という感じがしてしまいます。

 

ポールのソロ「Teddy Boy」があったり、「Dig It」がロング・バージョンで収録されていたりとマニアックな楽しみ方はありますが、そこまでかな。

ビートルズ『Let It Be』Special Edition (Super Deluxe) disc 3

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ゲット・バック・セッションの2枚目。こちらは主にその後発表されるソロ曲や『アビー・ロード』収録曲のリハーサル・テイクが続きます。

 

どの録音も楽しそうですが、バンドでアレンジを決めていく過程を聴いていて思うことは、「パフォーマンスで会話する」ということ。人は言葉で意思を伝えようとしますが、やっぱり言葉には限界があって、特に音楽のような形のないものは結局演奏しないと伝わらない。でも私たちは言葉しか伝える手段を持たないから、どうしてもその点がもどかしくなってしまいます。

 

でもバンドマンは楽器の演奏で意思を伝えることができます。これが普通の人と違うところで、センス一発で同意できます。これがパフォーマンスで会話する技術ですが、同じことはテクノロジーやデザインにも言えて、言葉で伝わらなくてもプログラムやビジュアルで伝えることはできます。従って、楽器が演奏できなくても我々は言葉とは違った別の伝達手段を持っているとも言える。

 

よく技術者と話す際に、人間関係とは別に技術だけでスパイラル状にアウトプットが向上していく瞬間に遭遇することがありますが、恐らくそんなことがこのスタジオの中でも行われていたんだと思います。

ビートルズ『Let It Be』Special Edition (Super Deluxe) disc 2

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ビートルズの『Let It Be』のボックスも配信で聴けるようになっています。ビートルズも過去の作品が様々な形で再発されていて、遂にゲット・バック・セッションは映像版も配信されるようになりましたが、一体どこまでビジネスが続くんだろう。ひっきりなしにずっとやっているような気がしますが、やはり汎用性が半端ないんでしょう。

 

このボックスがリリースされた際も大分迷いましたが、こうして配信で聴けて良かった。やはりアウトテイク集はなかなか手が伸びないので、こうした聴き方がやはり正しい。経済的にもそう思います。

 

1枚目がオリジナル楽曲のニュー・ミックスで2枚目と3枚目がアウトテイク集、そして4枚目がグリン・ジョンズのミックスということで、ここは2枚目から4枚目を聴くのが良いかなと考えます。

 

この2枚目は本編収録曲のアウトテイクが中心で、正規版との構成やイントロの違いなど興味深く楽しめますが、そこはやっぱりラフな仕上がり。こうした録音の過程を綿密に追いかける映像を映画にしてしまって最後は解散してしまうという流れでリリース時は映っていたと思われますので、それは観ている方は悲しくなりますね。順番としてはこの後に『アビー・ロード』の録音がある訳ですが。

 

演奏の方は色々と喋っていて楽しそうです。有名な楽曲群なだけにこうしたアウトテイクも多くの人の耳を捉える。配信されることで多くの人の耳にこうした音源が届けられるというのはやっぱりいいことだと思います。聴き流しでも「おっ」と思わせる。これが大事ですね。

グレン・ティルブルック『Pandemonium Ensues』

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2009年にひっそりとリリースされていたスクイーズのグレン・ティルブルックのソロ作品。ソロになってからの作品はきちんと聴けていませんでしたが、そもそもスクイーズが復活したりしていますので、徐々にミッシング・リンクを埋めている状態です。

 

それにしてもスクイーズと同様、グレンのソロ作もいいですね。どの曲も平均的にいいので、逆に突き抜けた名曲がないというジレンマもありますが。クオリティが安定しているので、安心して聴ける一方、余り記憶に残りにくい。

 

でも本作はなかなか音に元気があるし、認知度は低いものの安定感は抜群で、その後バンドが復活していくのも何となく頷ける内容です。ソロ作はまだまだ眠っている作品があるので、これはやっぱり掘っていかねばなりません。

坂本龍一『Playing the Piano 12122020』

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坂本龍一が昨年行った無観客ライブの音源がリリースされました。週末はCDで音楽に向き合うことにしているので、こちらも物理的なメディアで聴いています。

 

昨今ビル・エヴァンスを聴き進めるにつけ、坂本龍一の源流があるよなあ、などと考えながら聴いていました。直近の作品群はピアノの演奏か映画音楽、あるいは現代音楽といったラインアップなので、その一環として捉えれば良さそうですが、やはり音が優しい。この点が晩年の特徴だと思います。

 

選曲はベストアルバムのよう。かつ無観客ということで息遣いや楽譜をめくる音、椅子の軋む音なんかが聞こえてきますが、以前観客のノイズを意識的に入れたライブ作品とは異なって、静かなだけによりノイズに迫力があります。

 

坂本龍一高橋幸宏もいなくなってしまいそうでとても怖い。でもこうしてひとつひとつ作品を残してくれているので、噛み締めるように味わうのが聴き手の役割です。生活に音楽を、食むように耳に、脳に入れていく。そんな中でこのピアノの音楽はとても役に立つと思います。それはこれからも長い間。器楽は賞味期限が長い。今回は「Perspective」もボーカルなしでした。

プリンス『Sign O' The Times (Super Deluxe Edition) 』disc 8

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ラスト。オランダ、ユトレヒトのライブの後半。こちらは「Puple Rain」や「1999」といった代表曲を演奏するファン・サービスのパートで観客も大いに盛り上がっています。その後は『Sign O' The Times』からの楽曲を長尺で演奏する。13分越えの曲が2曲も演奏されています。これは果たして盛り上がっているのかどうか。間に「Kiss」を挟むとはいえ。

 

プリンスという人は揺らぎのある人で、超メジャーでベタなアプローチもする一方、ファンを突き放したような楽曲もあり、結局は自らの思うままに音楽を作って演奏していくことで人生を終えてしまった方なんだろうと思います。

 

だから様々な側面があって、自分が好きな部分だけを切り取って楽しめばいい。部分同期で良くて全体的に信奉する必要はない。これはきっとフランク・ザッパジョージ・クリントンも一緒なんじゃないかなあ。そんな風に感じたボックスでした。

 

フィジカルの方はこれ以外にライブ映像のDVDが後に続きますが、もうお腹いっぱいかな。しかしこうしてちゃんと内容を味わえるというのはやはり配信おそるべし、といったところでしょうか。

プリンス『Sign O' The Times (Super Deluxe Edition) 』disc 7

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最後は87年オランダ、ユトレヒトでのライブ。プリンスのライブは友人に連れられて一度だけ観に行ったことがありますが、そのエンタテイメント性、サービス精神に感心したものでした。当時は余りプリンスの音楽に詳しくなかったので左程実感が湧かなかったんですが、大衆音楽としてスタジアム級のステージをこなす雛形は充分に整っていたと思います。

 

シーラEがメンバーに加わって大いにフィーチャーされていますが、この辺りの記憶は微かにあって、当時プリンスといえばプリンス・ファミリーのシーラEみたいな感じでした。女性のパーカッショニストというのも意外な選択で、とても躍動的に映ったものですが、この頃はそろそろヒップホップの台頭にプリンス自身が追いつけなくなっていた頃ではないかと。全盛期に翳りが見え始めた頃ですね。

 

単なるメジャー・アーティストかと思っていたら意外と奥が深くて結構にマニアック。そして多彩で美しい。カッコいい曲も沢山ある、ということで、ああプリンスは凄い人なんだなあ、と再発見するのは大分後になってからです。もう90年代後半に入ってからじゃないかなあ。『Sign O' The Times』は文字が様々にデザインされたPVで印象に残っているくらいで左程記憶に残っていませんでしたが、高橋幸宏がラジオで紹介した「Starfish And Coffee」だけは引っ掛かっていた。そんな作品でした。

 

この時期のライブを映画化した作品も以前録画して観たんですが、どうしても記憶に残らない。何故なんだろうなあ。ちょっとグルーヴに欠けるからかなあ、などと考えながら聴いています。