ノラ・ジョーンズ『Feels Like Home』

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テレワークが続いて神経痛になってしまいました。快適なのは良いですが、やはり運動不足は否めませんね。

 

ノラ・ジョーンズは1stを聴いて以降、折に触れて耳にする「ウー、ウー、ウー、ウー」という印象的なコーラスの楽曲が入っている作品を探していました。本作冒頭の「Sunrise」という曲ですが、今回やっと聴けました。この曲は耳に残るいい曲です。

 

作品は04年リリースの2nd。ザ・バンドのリヴォン・ヘルムやガース・ハドソンと共演した曲なども入っていてとにかく渋いですが、何といっても音が良かった。プロデュースは自身とアリフ・マーディンの共同プロデュースですが、この音の良さは特筆もの。その上で感じることは、こうした高質な作品はなぜか耳が遠のくということです。優等生的な作品はなぜかリピート性に乏しいんですね。何故なんでしょう。

 

今回手にしたのはデラックス・エディションなので、DVDとの2枚組。そこに収録されているインタビューでご本人はビル・エヴァンスの強い影響を語っていました。最近よく聴いているジャズ関連でやっぱりビル・エヴァンスが引っかかっていたので、この辺りは嬉しい偶然です。

アルヴァ・ノト + リュウイチ・サカモト『vrioon』

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00年代の坂本龍一というのは、04年に『キャズム』、09年に『out of noise』をリリースした他はオリジナル・アルバムとしては目立った活動がなかったような印象があるんですが、実は復活YMOに参加していたり、こういったコラボ作品を多数リリースしていたり、といった課外活動に熱心だった時期ともいえます。

 

自分はそのコラボ作品をずっとスルーしてきたんですが、先日聴いたクリスチャン・フェネスとの作品も良かったし、今回手にしたアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライとの02年作品もとても良い出来でした。やっぱり99年の『BTTB』以降モードが変わったんですね。ここからピアノを弾くようになって、その後「音」に着目していく。

 

この作品で流れているのは静謐なピアノの音と電子音の織りなす静かな世界です。ゆったりとした時間に身を委ねることに重きを置くように価値観が変化してから、50年代のジャズやこうした静謐な音楽に目が向くという傾向は昨今加速していますが、これが晩年の所作なんでしょう。耳を突き刺す音楽は体が受け付けない。というより疲れてしまいます。

 

この辺の枯れ具合に当時異を唱えていたYMOファンもいましたが、エレクトロニカの流行を背景にエゴの消えた静かな音楽を奏でていた当時の復活YMOは次の時代の静けさを予感させるものでもありました。その流れの中にこの作品もあると思います。

ドナルド・バード『Byrd Blows On Beacon Hill』

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56年録音の作品。こちらも例によってハーモニカミッドナイトで紹介された作品となります。

 

ジャケットも渋いですが、内容もストイックでいい感じ。ドナルド・バードジャズ・メッセンジャーズの2代目トランペッターなんですね。解説を読んでいて出てくる人物の名前がだいぶ分かるようになってきました。50年代後半を中心に聴き漁っているので当たり前かもしれませんが、ハード・バップ期のプレーヤーはやはりあらゆるところで繋がっています。

 

マイルスのオリジナル・クインテットから始まった50年代後半のジャズを探求する旅ですが、まだまだ開拓の余地が残っているような気がしてとても楽しくなります。

 

先日英会話の先生と話していて、最近ジャズを開拓している話をするとその理由を問われました。単純に自分が歳をとったからだろうと答えましたが、きっとそんなもんなんでしょう。聴いていてとても落ち着きます。それがアップテンポのものであっても音がオーガニックなんですよね。

ビートルズ『Anthology 3』disc 2

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ラスト。今度書籍も出るゲット・バック・セッション関連の音源、すなわち『Let It Be』関連のデモとラスト・アルバム『Abbey Road』関連の音源を集めたものですが、ここでのデモやセッションの音源はどうしても解散へ向かう悲しいエピソードがイメージとして先行してしまいます。

 

例えば政局の報道が過熱して肝心の政策内容に焦点がなかなか当たらないように、ビートルズの後期も解散劇や人間関係といったエピソードにばかり焦点が当たってしまって、肝心の音楽に議論が及ばない。実際そうしたイメージで自分も『Let It Be』は良くないアルバムといった固定観念が強く与えられてしまって、きちんと聴くのは随分後になってからでした。

 

でも、『Let It Be』という作品は楽曲は結構良くて、冒頭の「Two of Usからして最高だと思います。続く「Dig A Pony」も好きですね。意外と演奏がラフなところも含めてなかなかいいアルバムで、最初にきちんと向き合った時は長らく聴かなかったことを後悔しました。

 

そういった意味で、後期の音源はこと音楽に限っていえば成熟の極地にあって、一度音楽を奏でてしまえば雑念は吹っ飛んでしまってグルーヴや演奏する楽しさが前面に出てくる。音楽家というのはそういうもんです。ここでの音源もそんな感じで楽しめば良いと思います。

 

ジョージ・ハリスンのその後のソロ・アルバムの表題曲となる「All Things Must Pass」のデモ音源があったり、後にバッドフィンガーに提供するポール・マッカートニーの作による「Come And Get It」が入っていたりと興味は尽きないんですが、これでもうお終い。

 

この『Anthology 3』が96年の発売で、その後『Let It Be Naked』が出るのが03年ですので、少なくとも『Let It Be』については初期バージョンが正式に世に出ている。後は映像ですね。出る出ると言われて久しいですが、そろそろ機も熟したかなと思います。

ビートルズ『Anthology 3』disc 1

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アンソロジーの第3集は後期音源です。1枚目はホワイト・アルバムのデモやアウトテイクですが、これは50周年記念ボックスが出た際に会社の人が話していたことを思い出しました。

 

曰く、「一回聴いて二度と聴かないかもしれないから迷ってるんだよ」と仰って、結局買ってないんじゃないかと思いますが、デモ集というのはそういうもんで、やっぱり聴くなら正式盤の方に手が伸びてしまう。マニアでもやっぱりそうなんじゃないかなあ。この『アンソロジー』も結局そんなに皆聴かなかったから中古屋にも結構な数の在庫があって価格も安いのかな、などと考えてしまいます。

 

とはいえ、自分はホワイト・アルバムは大好きなので、ここでの音源も興味深く聴けました。ジョージ・ハリスンの家に集まって録音した通称イーシャー・デモといわれる音源も初めて聴きましたが、もうこの時点で『アビー・ロード』の楽曲があったなんて。

 

超メジャーなアーティストは偶像化されてしまうので一瞬その正式な作品ごとに時間が経過しているかのように聴く側は錯覚してしまいますが、アーティストも当たり前ながら一人の人間なので、その人生は時間と共に継続している。作品ごとに存在が分かれているわけではありません。ゆっくり過ぎていってその時間は繋がっているんですね。だから作品の時期が前後していても当たり前で、後のソロ作品のデモがここで聴けても当然なわけです。

 

ビートルズが仲が良かったのは「ヘイ・ジュード」までで、そういった意味ではこのディスクの頃までが4人のバンドだった。既にホワイト・アルバムでは個人作業化してはいますが、まだバンドとしての意思疎通があって、そのいい雰囲気が「ヘイ・ジュード」のテレビ出演での映像から伝わってきました。

 

次のディスクが最後ですが、ここではもうバンドは終わっている。後味の悪い解散劇を繰り広げていたという最後の頃の作品ですが、それでも音楽はいいんだな。感情的なすれ違いも一旦音楽を奏でると一瞬で吹っ飛んでしまう。この辺りはスポーツなんかでも一緒かもしれません。フィジカルに動くと雑念が消えるんですね。

ジャパン『Live From The Budokan Tokyo FM, 1982』disc 2

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後半は多彩なゲストが登場します。まずは解散コンサートの際にゲスト・ギタリストとしてツアーに同行した土屋昌巳。そしてデヴィッド・シルヴィアン坂本龍一の共作シングル曲「Bamboo Music」を演奏する際には坂本龍一矢野顕子。更に坂本龍一提供曲の「Taking Islands In Africa」ではボーカルとして高橋幸宏を招き入れます。

 

この一連のゲスト紹介時の観客の声援といったら・・。もうビートルズの来日みたいな歓喜の声が会場を埋め尽くしていますが、当時はジャパンもYMOも女性のアイドルだったんですね。ジャパンはグループ名からしても日本の女性ファンが一気に人気に火をつけたバンドですし、クイーンなんかもそんな感じで人気を得ていった。やっぱり女性ファンはいつだって大事です。

 

この解散ライブが開催された82年12月という時期は、YMOが「君に胸キュン」の制作に入る直前の時期にあたります。YMOは81年で一回燃え尽きて、そこで解散しても良かったんですが、なかなかそうはさせてもらえなかった。そこで活動休止期間に加速しつつあった歌謡曲の世界へのアプローチを自らの作品で半ば自己パロディ的にやってのける方向へ舵を切ったわけです。その個人活動期間の終わりの時期にジャパンとの邂逅を位置付けることができます。

 

ジャパンが覚醒したのはシングル曲の「Life In Tokyo」から。そして続く「European Son」もとてもいい曲ですが、この辺をきっちり後半では押さえてくれます。このディスコ路線というか、ジョルジオ・モロダーから始まるテクノポップの創世記の音の質感がとても初々しく、かつここでもやっぱりミック・カーンのフレットレス・ベースが重要です。グルーヴの底辺を支えているんですね。

 

全般的に退廃的ながらもリズミカルで、かつ英国特有の憂いを持ち合わせたサウンドは永遠。それにルックスの良さが加わるのでもう言うことなしですね。

 

最後が矢野顕子の『愛がなくちゃね』に収録されているデヴィッド・シルヴィアンとのデュエット作品「Good Night」で終わるというのも憎い演出です。素晴らしい時期の記録ですね。当時の記憶が蘇ってきました。ここから38年経っているなんて物凄いことです。

ジャパン『Live From The Budokan Tokyo FM, 1982』disc 1

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出るとは思っていなかったジャパンの解散コンサートの音源。正式リリースとはいえ音源はおそらくはエアチェックのもので音質は今ひとつです。とはいえこれは記録そのものが貴重。ご本人達は不本意でしょうが、聴く側としてはやはり嬉しいですね。

 

オープニングは「Burning Bridges」のテープ演奏なので尚更音質の悪さが強調されてしまいますが、聴き進めていくと慣れてしまうのか、左程気にならなくなってきます。元々自分も当時サウンドストリートか何かで放送されたものをエアチェックで聴いていたので、まあこんなものかな、と思ってしまう。当時FM放送があったから、その後手を加えて曲数を絞って発売されたライブ盤『オイル・オン・キャンパス』には手を出さなかったんですね。音質を求めるならそちらを聴くとして、ここは記録記録。

 

デヴィッド・シルヴィアンはライブが苦手だったそうですが、それでも最後は結構な数の公演をこなしています。そして、数少ないライブ映像で観ることができるミック・カーンカニ歩きには驚愕したものですが、ミックはそこそこライブが好きだったのかなあと思っていました。

 

とにかくジャパンはビジュアルが美しいので、その佇まいだけでも卒倒してしまう。本盤でも女性の黄色い歓声がびっくりする程聞こえてきますが、今となってはジャパンを語るのはYMO好きの男性になってきてるのでは?と思ったりします。まあ自分もそうなんですが・・。

 

後期ジャパンは音楽的にも絶好調で本当に隙がないですが、このライブ盤の本領発揮は2枚目にあるでしょうね。1枚目はまずは当時の状況に思いを馳せる感じで聴いていくのが正しい聴き方かなと思います。