坂本龍一『Year Book 2005-2014』disc 2

2枚目は様々な楽曲が入っていますが、一番馴染み深いのはやはりスコラのテーマ曲でしょうか。当時2009年リリースの『out of noise』でも提示されていたピアノの音がズレていく構成。この「ズレ」が後の2017年作品『async』すなわち「非同期」に発展していく訳ですが、この2005年から2014年という時期はまさにその過渡期にあたる音源集となっています。

 

坂本さんは2014年に病気を公表されてその後療養に入られますので、この音源集はその直前までのものを集めたものとなっています。そして復帰後に『async』の制作に入る訳ですが、そこでのテーマは音の「ズレ」と音そのもの。この要素は『out of noise』から連続しているものとなります。

 

こうして様々な音源を聴いていると、坂本龍一さんの作品によって自分の音楽に対する範囲のようなものが広げられていたことに気付かされます。やはりこれらの楽曲は普通のポップスではないし、音楽ですらないものまで含んでいる。環境音、極端に言えば無音の背景にある生活音までもが音楽であるという概念は普通に暮らしていたら得られない感覚でしょう。

 

加えて様々な追悼番組を見ていて思うのは、坂本さんの代表曲は結果的に映画音楽だったということです。晩年ピアノ演奏に回帰していったからかもしれませんが、結局は「戦場のメリー・クリスマス」「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」に行き着いてしまう。そしてそれがやはり心に響いてくる音になっているような気がします。

 

自分も含めて多くの人の耳を拡張してくれた方なんだと今では捉えられるようになりました。改めてご冥福をお祈りいたします。