『A Tribute to Ryuichi Sakamoto - To the Moon and Back』


坂本龍一さんの訃報が伝えられて1週間ほど経ちましたが、様々な追悼番組に触れるにつれ、やはり何がしかの音を聴いておきたいと思いました。何がいいかな、と考えましたが、きちんと聴けていなかったこのトリビュート盤を選びました。昨年2022年にリリースされた作品ですが、ここで聴ける一貫した静謐な音たちはある意味予感的なものを感じさせます。

 

まだ高橋幸宏さんの訃報もきちんと捉えられない状況なのに、立て続けに坂本龍一さんも亡くなってしまって、いまだに現実感がありません。ただ、受け取るメッセージがあるとしたら「日々を大切に生きる」ということだと思います。既に自分もそのような年齢になってきていますので、一日一日を噛み締めるように生きる、生活する、という基本的なことが大事であるとナチュラルに感じています。

 

このトリビュート盤の話題はやはりデヴィッド・シルヴィアンの10年ぶりの歌唱、ということになるでしょう。ブランクを感じさせない歌声が聴こえてきます。ここ最近はリリースも少ないですし、昨今の作品は現代音楽的になってきていましたが、ここでの音楽は決して難解なものではなくあくまで温かい。そしてその温かさは他の楽曲にも通底しているように感じます。

 

サンダーキャットの「千のナイフ」も温かい感触ですし、コーネリアスの「Thatness and Thereness」のカバーもいつもの温かい電子音で成り立っている。とても静かな音なんだけれどもこうした温かさが伝わってくるのは、やはり坂本さんへの友愛が溢れているからなんでしょうね。環境音やノイズも含めてとても心地いい音が響いていると思います。

 

冒頭の「Walker」のカバーで後半に聞こえる「考えんな」という声。これが色々な意味で刺さってきます。つい色々と考えてしまいますが、そうではなくて淡々と日々を過ごすこと。そして外の空気や音を感じること。それが坂本龍一さんから最後に伝えられたメッセージなんだと思いました。