鈴木慶一『シーシック・セイラーズ登場!』

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ここからしばらく新譜ラッシュが続くので、一旦中古屋巡りは凍結。必殺のビートルズ・リマスター再発で年内は完全撃沈だ。ホントに経済的余裕がないので、更新もしばらくは間があくでしょう。

てな訳で鈴木慶一のソロ。初回はDVD付で3900円もするが、世界観は自ら監督した映像とセットでないと味わえないので、ここはマスト。きついなあ。

前作がレコード大賞のアルバム賞か何かを受賞したそうだが、あんなに難解な作品が受賞対象になるなんてどういうことなんだろう。前作の混沌とした作り込みの音楽から今回は一歩突き抜けたバンド・サウンドとなっている。が、基本線は左程変わらない。

まずジャケットがいい。パッケージ・メディアが終焉の危機にある中で、インナーも含めてここまで装丁に凝るのは前時代的とすら感じられるが、あらゆる手段で表現を伝えようとするこうしたやり方がかつては普通だった。ビジュアルもカラフルでポップな内容を予感させるが、開けてみるとそこには暗い世界が広がっている。普通の人にはついて来れないなあ。鈴木慶一を知らない人が手に取るアルバムではないだろう。例えば曽我部恵一プロデュースということで聴いた人は、やっぱり難解で手放してしまうんじゃないか?もっとポップでいいのになあ、と思う。このビジュアルで酔っぱらいのうめき声みたいな曲をやっているギャップが素直には楽しめない。

それにしても映像も含めて、鈴木慶一はもはや俳優のようだ。かつてのロックオペラを再現する、といった意気込みだそうだが、今それを求める人がいるかどうかは別として非常に濃くて、やりたいことをやりたいようにやっている。それに若いミュージシャンがついていくという奇跡。メジャーでよくここまでやらせてもらえるなあ、と思うのはフランク・ザッパの1st『フリーク・アウト』でも感じたことだが、そこから40年以上の開きがある。

気に入ったのは『FMとAMの間のゴースト』での最後のリフレイン。こうした単純な繰り返しの魅力がかつてのムーンライダーズにはあった気がする。シンプルでいいんだよ。そこが陶酔の要だ。あがた森魚のような一大妄想世界がここで完成をみたなら、次は快楽原則に沿ったシンプルかつ凝った音づくりに向かっていって欲しい。