高橋幸宏『Portrait with No Name』


坂本龍一の一周忌でメディアでは様々な特集がなされていますが、高橋幸宏の方は左程のイベントはありませんでした。ただ、このEMIイヤーズのリマスター再発が本当に良い出来栄えなのと、改めて聴き返してみて良い作品ばかりなので、とても嬉しいひと時を過ごせています。

 

96年のこのアルバムは発売時にはほとんど意識していなかった。一時期ひと通りの作品群を聴き返した際に、この作品へのモチベーションはトリビュート盤での高野寛の提供曲「流れ星ひとつ」が非常に良い曲だったことが唯一の出来事でした。

 

もちろんその曲はいい曲なんですが、それ以外にも「終わらない旅」「FIELD GLASS」「足ながおじさんになれずに」といった良作が目白押しで、このアルバムは非常にいい作品となっています。前作の『Fate of Gold』もとてもよかったんですが、この作品も負けず劣らずいい。

 

加えて、ここから既に電子音への回帰が始まっているように思えます。高橋幸宏の音楽に再びリアルタイムで向き合うようになったのはスケッチ・ショウを経た2006年の『Blue Moon Blue』からでしたが、実は心痛3部作もとても良い作品でしたし、93年のYMO再生を経た作品群も一拍置いて電子音楽に戻りつつあった。それがエレクトロニカという手法で爆発する寸前のこれらの作品で表現されていたという事実にやっと気付かされました。

 

背景にエヴリシング・バット・ザ・ガールドラムンベースに歌ものとして取り組んだことも大きいようで、その影響は次作の『A Sigh of Ghost』以降でより顕著になっていきます。