The Beatles In Mono『Rubber Soul』

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ビートルズが別のバンドに化ける直前の65年リリース作品。ここから自分が聴いてきた作品に入ってくる訳ですが、モノラルになって分かるのは「普通に曲がいい」ということです。今回リリース時のステレオミックスが入っていますが、これは極端なまでの左右への振りで『ノルウェイの森』なんかはぶっとびものです。ほとんど曲としての体裁をなしていない。これまで接してきたステレオ盤に何となく感じていたことはサイケデリックの時代性なんですね。ある種不思議な感じで響いてくる音の構成から紡ぎだされるメロディは非常にポップ。でもそこに変種のような前衛性が宿るように聴こえるのはこの前時代的な左右への音配置であった訳で、「何か変わってるな」という感触を結果的に増幅していた感があります。

それがモノラルではある意味「普通」に聴こえる。ということは楽曲の楽しみ方としてはこちらの方がまともになる訳で、特に当時のステレオミックスでの異常ぶりはそこに拍車をかけています。これはもはや曲ではない。バックで鳴り響くアコギの音やベースの旋律は当然モノラルでこそ味わえるもののように思います。ステレオで極端にねじ曲げられた音楽が逆に当時のドラッグ・カルチャーを増幅して伝えていたなんて自分の理解が甘かった。

今回一番印象を変えたのはジョージ・ハリスンの『Think For Yourself』でした。ファズ・ベースの音がステレオでは右側に埋もれていましたが、モノラルになって中央に定位するといきなり存在感を増して曲の印象を変えてしまいます。もう1曲のハリスン作『If I Needed Someone』もほんとにきちんと曲として聴こえてきて改めて楽曲の魅力に気付きました。

『Michelle』や『Girl』といった音数の少ない曲はステレオで左右に振られても曲の説得力は残りますが、普通のバンドサウンドはパート毎の誇張が発生します。その意味で『Drive My Car』のベースの衝撃は逆にステレオの方が際立ったりする。モノラルではきちんと全体の中に定位するのでベースパートの斬新さが埋もれてしまうんですね。これはいいのか悪いのか。インパクトはステレオの方があったんじゃないかなあ。つくづく皮肉なものです。

「捏造されたサイケデリック」。結果的に本人達の意向とは別に。でも楽曲の本来のよさはモノラルでこそきちんと味わえる。何となくどちらも捨て難いですが、基本はモノラルで味わってステレオで変種のインパクトを受ける、という楽しみ方が先にステレオを聴いた世代の宿命的楽しみ方かも知れません。これは複雑だなあ。