ダニー・ハサウェイ『Never My Love : The Anthology』disc 3

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年末年始はソウルを聴く、と会社の人の年賀状に書いてしまったので、約束通り聴くことにしたのがダニー・ハサウェイのBOXです。これは何といっても『LIVE』の別バージョンが目玉。ということで3枚目から聴くことにしました。

少し音圧が低い。ただ内容は極上で、『LIVE』程の臨場感はないにせよ、演奏の持つパワーは圧倒的です。本当にいい。『LIVE』で観客のざわめきが音として渾然一体となっていたのはマイクの置き方が異なっていたからのようで、敢えてコール&レスポンスの臨場感を捉えるような趣向をアリフ・マーディンが施したのが理由のようです。パーラメントの『アース・ツアー』同様、本当に凄い臨場感でしたが、当然同時期の演奏が悪いはずはない。

何がいいかというとやはりダニー自身のキーボードに歌心があるのが大きいと思います。絶妙なコード感が目眩を誘う。当然コーネル・デュプリーのギターやリズム隊のうねりもいいんですが、何といってもキーボードの音の高揚感が極上で、奏でる空間を演出する大きな要素になっていると思います。

坂本龍一のスコラでドラム&ベースの回に『LIVE』から『What's Going On』が取り上げられていますが、これはアーティストというより全体のバンドのグルーヴでピックアップした感じなんですね。特に見返してみても演奏者への個別の記述はありませんでした。

ダニー・ハサウェイという人は少し謎の多い人で、33歳という若さで70年代後半にホテルの15階から飛び降りてしまったんですが、どうも解説を眺める限り鬱の傾向があったようですね。圧倒的な才能がスターダムに押し上げられてバランスを崩していく。こんな悲しいことはないですが、ピークが生き急ぐ結果を招くのは世の常。やはり何だかんだ言って長く生きるといいことはあるので、毎日を時の過ぎ行くまま積み重ねるように生き続けていくのは大事なんです。

この人の場合、根はアレンジャー気質なのでカバーが秀逸なんですが、先の『What's Going On』でのマーヴィン・ゲイジョン・レノンの『Jealous Guy』、キャロル・キングの『You've Got A Friend』といった楽曲はダニーの手にかかると素晴らしいソウル・ナンバーに化けてしまいます。恐ろしい程のクオリティに裏打ちされた77分間。極上の正月休みを彩ってもらいました。