トーマス・ドルビー『Live Wireless』

f:id:tyunne:20181101211330j:plain

今回購入した再発CDに付属で付いていたDVDはかつて『Live Wireless』として商品化されていたもの。内容は初めて観ましたが、時代考証として非常に興味深い内容でした。

当時のライブ映像は背景にPVや曲に関連する映像を流しているものですが、現在では当たり前のように行われる映像による演出を既にこの時点で行っている。およそ30年も前のことですから、その先進性が見て取れます。更にその映像を裏で映像技師が投影しているという設定ですが、ここにまず発見がありました。そこでのトーマス・ドルビーの姿は坂本龍一との共同シングル『Field Work』のPVに酷似しているのです。

『Field Work』ではモヒカン姿でしたが、どこかマッチョなキャラクターとしてトーマス・ドルビーが自らを演出していた。その原形はこの映像にあって、何となく漂う肉感的な描き方や執拗にポラロイド・カメラで撮影する仕草等、映像的に重なる場面が多々見受けられます。『Field Work』が85年、この作品が83年のリリースですので、時代的にも符合します。

もう一点の発見はライブでジョニ・ミッチェルのカバーを演奏していたことです。カバーしているのは75年のジョニのアルバム『夏草の誘い』からなんですが、その中でも異彩を放っている『Jungle Line』というアフリカン・ビート炸裂のナンバーを電子音楽化しています。この選曲センスにまずは驚かされますが、重要なのはその後やはり85年にリリースされるジョニ・ミッチェルの『Dog Eat Dog』をトーマス・ドルビーがプロデュースしていることです。およそ接点がないかと思っていましたが、少なくともトーマス・ドルビーは早い段階からジョニ・ミッチェルに敬意を表していたんですね。プロデュースに至るきっかけまでは残念ながら知りませんが、何らかの形でラブコールとなっていたのではないかと推測します。

演奏の方はライブということもあって躍動感が増していますが、若干当時の音色が目立ち気味で古く聴こえる面も否めません。演出面でも曲に合わせてお面を被ったりスチュワーデスが登場したりと多少演劇的ですが、微笑ましく観ることが出来ます。

その後のトーマス・ドルビーの活動を予感させる要素が散りばめられた貴重な映像。これがおまけで付いてきてしまうというのは非常に贅沢な再発商品ですね。