ジョニ・ミッチェル『Dog Eat Dog』

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85年リリースの問題作。といっても聴後感は思っていた程シリアスではなく、きちんとポップ・ミュージック然としていました。どうしてもジャケットの怖いイメージがあってなかなか手を出せずにいましたし、トーマス・ドルビーの参加、電子音楽に果敢に取り組んだ、といった冷たいイメージやシリアスな歌詞内容、等々従来のファンの耳を遠ざけるような要素ばかりが目について、ついつい避けがちな作品となっています。でも内容はその後のジョニ・ミッチェルAOR路線に繋がるある意味穏やかな作風で、いい曲も沢山入っています。

実験作というのは己のイメージを覆すためにあるのかもしれませんが、実際にはそれまでのキャリアや志向が細かいところに滲み出ていて、決して反転したりしない。そんな風に思いますが、意外だったのはプロデュースは本人なんですね。トーマス・ドルビーはあくまで音のアシスタントとして手伝ったような記載がクレジットされている。となると、左程の振れ幅はないし、何より楽曲重視の人ですから電子音オンリーに走ったりはしない。実際リードトラックの『Good Friends』はポッパーズMTVで目にしていましたが、結構ポップな曲でした。そう考えるとそんなにエッジの鋭い音にはなっていない訳です。ここを見落としていた。

ものによっては煙草の自販機の音をサンプリングした曲なんてのもありますが、それだって結構音楽として成り立っていて、何も怖がることはありません。音の質感も全体的に平板なんてこともなく、充分に奥行きがあります。従って、端的にジョニ・ミッチェルが時代に迎合した作品として捨て置くには誠に勿体ない作品であるといえるでしょう。