鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』

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76年という年は細野晴臣トロピカル三部作の真っ最中で、かつ矢野顕子の1st『ジャパニーズ・ガール』やあがた森魚の『日本少年』といった重要作品がリリースされた時期にあたります。本作はそういった背景の元、『トロピカル・ダンディー』に端を発した無国籍音楽の要素も含みながらも、はちみつぱいから連なる日本のポップス黎明期の雰囲気を多く携えた貴重な記録となっています。

「あの娘のラブレター」をまともに聴いたのは大分後になったムーンライダーズのA面1曲目を順に演奏するライブでのことでした。初期のライダーズを色眼鏡で見ていた自分にもこの曲はダイレクトに入って来た。そいつを冒頭に抱えて続く2曲目が「スカンピン」というこの上ない構成で、かつその後も何度も耳にする楽曲を多く収録している素敵な作品であることにやっとのことで気付いたのが発売から20年以上も経ってからだったという事実。

本作をムーンライダーズの1stと呼ぶには若干無理があって、本来は鈴木慶一の1stソロとして制作された作品として認識すべきものですが、結果的に「鈴木慶一ムーンライダース」という表記がなされたのは一種の運命として捉えるべきでしょう。実際岡田徹の「ウェディング・ソング」なんていうのも収録されていますので仕方ない。

その後震災の年に再演もなされ、同年にムーンライダーズとしての活動に終止符が打たれたという意味でも記念碑的作品として位置付けられている重要作と考えることが妥当かと思われます。