ムーンライダーズ『moonriders special live カメラ=万年筆』

f:id:tyunne:20210612100754j:plain


2020年の8月に行われたムーンライダーズの『カメラ=万年筆』全曲演奏配信ライブの音源がリリースされました。

 

当時の模様はダイジェストになってYouTubeにも上がっていますが、今回のリリースは音のみ。映像ではバケツの水の音や掃除機の音などが実際に実演されて、この作品が持つアマチュアリズムに満ちた革新性の種明かしがされていますが、音だけで聴いていた方がむしろ謎めいていていいかもしれません。

 

配信ライブ自体は当時観るのを見送ったんですが、その後映像を観たり、こうして音源を聴いていると、このライブでオリジナルの作品をかなりアップデートしたような印象を受けました。充分に現代版に内容を更新している。

 

そもそもアルバム全曲再現ライブというのはベタな企画ではあれ、最近のトッド・ラングレンスティーリー・ダンの再現ライブを聴いているとやっぱりいいものはいいんですね。元々の作品が好きなんだから、再現されれば良いのは当たり前なんですが、やっぱり躍動感が出る。この『カメラ=万年筆』のライブでもその躍動感は充分に感じられます。

 

そして何より曲がいい。ここ最近、2009年に出た、はちみつぱいのライブ・ボックスを聴き直しているんですが、やはりはちみつぱいから初期のムーンライダーズというのは老成していて、そのノスタルジックで抒情的なところが魅力だった。それが1980年の『カメラ=万年筆』からガラリと変わってニューウェーブに接近したんですが、そこでは実験性だけでなく楽曲のキレ、というかポップな度合いも一皮剥けた感じがあって、その両面の魅力を携えてムーンライダーズは80年代を駆け抜けたんだと思うんです。

 

活動後期のライブでこのアルバムからの曲が演奏されると非常にライブに勢いが出る感じがありました。その位、このアルバムではギアが一段上がった訳です。その熱量が今でも楽曲に宿っている。

 

佐藤奈々子さんがライブに参加されているのもポイントで、アルバムではA面最後の楽曲「幕間」の前に新たに詩を加えて朗読されています。そして「幕間」には2番が追加されている。この佐藤奈々子さんの参加が、ライブに奥行きと気品を加えていると思います。

 

本日はムーンライダーズの結成45周年ライブが開催されますが、もう活動休止どころか完全に復活している感じがあって、ライブもやるし新作も出るということで、まだまだ現役バンドとして活動を続けていくように見えます。これは非常に凄いことです。