ムーヴ『SHAZAM』

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2ndも大量のボーナストラックを追加して2枚組全43曲での再発となりました。ここのところデラックスエディションでの再発ラッシュですが、こんなにも大量の楽曲を追加しての再発はなかなかないのではないでしょうか。

本作はオリジナルアルバムとしては全6曲で非常に重いハードロック調の楽曲で構成された作品でしたが、ムーヴはシングル曲をアルバムに収録しないので、活動の全貌はアルバムだけでは分かりにくい。今回の再発はそこを丁寧にフォローして、かつBBCセッションもパッケージした形式になっているので必然的に収録曲が多くなる形となっています。ここで分かることがいくつかあります。

ロイ・ウッドの才能というのはトッド・ラングレンフランク・ザッパと同様、非常に振れ幅の大きいもので、ハードロック、グラムロックからトラディショナル、甘いメロディのポップスまでカバーする範囲がとても広くなっています。本作でもアルバムこそ重い音ですが、シングルでのポップな側面、特に「Curly」なんかでのまるで童謡のような甘口のテイストは一緒に演奏するメンバーからするとついていけない感じがするのではないでしょうか。実際このアルバムの制作中にも二人のメンバーが脱退しています。

当初本作は2枚組が構想されていたそうですが、もしそうなっていたら恐らくアルバムは多彩な側面をもった作品に仕上がっていたんじゃないかと思います。それをハードロック調で統一して出さざるを得なかった。しかしシングル曲等と比較して相対的に捉えると必ずしも当時のムーヴがひとつの方向性だけを追っていたとは思えない。そのあたりをあぶり出すのが今回の再発なんじゃないかと思います。全貌がアルバムだけではつかめないんですね。

実際、シングルの「Wild Tiger Woman」や「Blackberry Way」等が醸し出す色合いはムーヴの突出した個性をよく表していますし、それなしでは当時の立ち位置は語れないんじゃないかなと思います。そういった意味でもこの力作は編集側に敬意を表する仕事だなあと感じます。