フィッシュマンズ『オレンジ』


94年リリース4作目。大分ここでも音が変わってきました。

 

エンジニアのZAKが全面的にプロデュースに関わり始めて、音が彼方の方向にぶっ飛ばされてきた。これがこの後のフィッシュマンズを孤高の存在へと高めていく、本当に彼岸の音楽のようになっていきます。そのスタート地点にあるようなアルバムなんだと思います。

 

若干軽めの雰囲気もあって、油断すると耳を通り過ぎるような音でもありますが、彼岸の萌芽は見てとれる。94年というと自分は福島で絶不調の頃でしたので、こうした音に気付くはずもありませんでしたが、世間は95年の大震災や地下鉄サリン事件に入る前のバブルを引きずった浮かれた気分で満たされていた頃ですので、そこにこんなに沈んだ世界が提示されていたということに驚きを禁じ得ない。沈潜して狂騒が終わっていくことを予言しているかのような、クールで体温の低い音楽です。