フィッシュマンズ『オー!マウンテン』


フィッシュマンズの95年リリースライブ盤。ライブ盤とはいえ、実際にはかなりリミックスが施されているので、実質的にはライブ音源をソースとした新作、というよりベスト盤的な趣です。

 

この翌年に『空中キャンプ』がリリースされる訳ですが、自分が最初にフィッシュマンズに抱いた印象はやはりレゲエでしたので、ここまでの初期作品に表れているレゲエのリズムに乗った比較的オーソドックスな楽曲のイメージは左程フィッシュマンズの印象を変えるものではありませんでした。

 

しかしながら着実に音は彼岸に近づいていて、それはひとえにZAKのおかげ、ということになるのではないかと思います。この音響処理がどんどんフィッシュマンズを変えていった。しかし基本にあるレゲエのビート、特にベースラインの存在感はフィッシュマンズの音像を特別なものにしていて、ここはきっと時代性も関連していそうです。

 

そして立ち上がってくる気怠さ。これこそが90年代の雰囲気でしたし、恐ろしいことがあった95年も多くの人にとってはテレビの中の出来事だった。この恐怖が更新されるのは2011年まで待たなければいけませんが、自分はどちらも体感していません。従って彼方の出来事でしかない。

 

今は大分失われたこの気だるい感覚の蔓延した先の見えない雰囲気。不安とも違うけれども言葉にできないジワリとした恐怖は音楽が表現するにはもってこいの世界だったのではないでしょうか。それを言葉で意識できたのが自分にとっては東浩紀の言説だったので、90年代はスチャダラパーフィッシュマンズにヒントをもらったような気がします。