細野晴臣『オムニ・サイトシーイング』

f:id:tyunne:20201107045004j:plain


89年リリースの作品が再発されました。今回も砂原良徳のリマスターです。ここが大きい。

 

この作品は非常に様々な要素が詰まったアルバムで、最初は「江差追分」から始まってアラブ音楽やアンビエントの要素なども散らつかせつつ名曲の「プリオシーヌ」で終わる。

 

当時よく言われていたワールド・ミュージックという用語で括ってしまうと少し内容を見誤るような感じもありますが、湾岸戦争前のアラブ音楽がパリに入り込んできた混沌をキャッチして、かつこれから入っていく静かなアンビエントの海の世界にも片足を突っ込んでいる。そんなアルバムです。

 

3曲目の「オルゴン・ボックス」がとにかく好きで、このクールなテクノ・ファンクは永遠だと思っています。何度聴いてもカッコいい。加えて当時CMにも使われた「アンダドゥーラ」とラストの「プリオシーヌ」でもう名作決定、という感じなんですが、今回のリマスターでは上級編の中盤各曲が印象に残りました。

 

音の粒立ちがとにかく良いので楽曲が再度命を与えられたように立ち上がってくるんですが、「オヘンロ・サン」なんかは『フィルハーモニー』の「お誕生会」のような生活音の生々しさが味わえますし、後の2017年のアルバム『Vu Ja De』で歌詞付きでセルフカバーされる「レトルト」なんかも情緒的。アルバム全体が意志を持ってこちらに迫ってくる感じがします。

 

ジャケットも美しくて、これはアナログで手にした人はきっと見惚れていることでしょう。自分はCDですが、それでも綺麗だなあと見入ってしまうので、大きければ尚更だと思います。贅沢な時代となりました。

ケニー・ドーハム『'Round About Midnight At The Cafe Bohemia』

f:id:tyunne:20201103072913j:plain


最近radikoをエリアフリーで聴くようになって全国のラジオ番組が聴取可能になったんですが、本作は福岡のジャズ番組で紹介されていた一枚です。

 

録音は56年。ケニー・ドーハムは以前に1枚『静かなるケニー』を聴きましたが、それに続いての2枚目。邦題では『カフェ・ボヘミアケニー・ドーハム』というタイトルです。

 

バンドにギター・プレーヤーがいる作品は余り聴けていないんですが、ジャズでのギターの音もいいですよね。基本的に音量を抑えたミュートっぽい音色であることが多いんですが、その辺りの抑え具合も良くて、いつか本格的にジャズのギター・プレーヤーを漁ってみたいと思っているところです。

 

ケニー・ドーハムは『静かなるケニー』の印象で少し隠居気味のプレーヤーなのかと思っていましたが、ここでの演奏はそんなことはなく、渋いながらも溌剌とした演奏が繰り広げられています。ライブというのも大きいかな。

 

ラストの「Hill's Edge」という曲はマイルス・デイヴィスの『Workin'』に入っている「Four」という曲のテーマが登場する楽曲で、このスピード感はやっぱりいいですね。編成が多人数なので、より面白く聴くことができます。

Lamp『木洩陽通りにて』

f:id:tyunne:20201102053600j:plain


ずっと気になっていたLampというバンドの作品を初めて聴きました。これは05年リリースの3rdですが最高ですね。何故今まで聴かなかったんだろう、と後悔する系統の音楽です。

 

元々はキリンジ が好きな人が聴いている音楽だということで、もう随分前から名前は知っていたんですが、恥ずかしながらつい最近NegiccoのKaedeさんの新作にバンドメンバーの染谷大陽さんが参加されているということを雑誌などで目にして「そういえば・・」と思って手にしたのがたまたまこの作品でした。

 

もう冒頭からノックアウトで、完全に昨今のシティポップの流行の先をいっている。この辺の洒脱さはクニモンド瀧口の流線形一派にも通じますが、もう少しピュアな感じがします。いずれにせよ70年代のティン・パン・アレー系の音楽を聴いているかのような感覚。それが現代風にアップデートされているのが冨田ラボをはじめとする一連の音だった訳で、その王道にきちんと音楽をプロットしているような気がします。

 

ビル・エヴァンスに続いてまたコンプリート系のアーティストを発見してしまいました。この多幸感はやっぱり何物にも替えがたいですね。

トッド・ラングレン『A Wizard A True Star... LIVE!』

f:id:tyunne:20201101060531j:plain


ムーンライダーズの配信ライブの次はトッド・ラングレンのライブです。09年に行われた4thアルバム『A Wizard A True Star』の全曲再現ライブの映像と音声を2枚組にした作品。もうずいぶん前のライブになりますが、確か当時はWebで有料配信していたはず。こういう取り組みもトッドは早いんですよね。

 

先に映像の方を観ましたが、トッドが曲の度に次々着替えて出てきて、本当にここへ来て何でもやるなあ、と感心してしまいました。一歩間違えば学芸会ノリなんですが、それでも汗だくでステージを引っ込んでは出てきて歌って演奏するバイタリティは凄い。音楽家なのに芸能をやっている、興行をやっている感じがします。本人も楽しいのかな、きっと。

 

『A Wizard A True Star』は結構インストの曲もある作品なので、インスト曲の間にトッドはステージを引っ込んで着替えてまた出てくる。「Does Anybody Love You」ではカシム・サルトンが代わりにボーカルをとったりもしますが、基本的にバックの演奏陣がしっかりしているので音楽は安定して聴くことができます。

 

この後5作目の『Todd』や果ては『Healing』までもアルバム再現ライブをやってしまうという破格のファン・サービスを行うトッド・ラングレンですが、こうしてかなり時間を置いてライブ作品がリリースされますので、まだまだ目が離せない。ムーンライダーズもそうですが、とにかく元気なのが何よりです。歳をとると、もうそんなことが一番大事なような気がしてきました。

ムーンライダーズ LIVE 2020

f:id:tyunne:20201031203413j:plain


まさかあるとは思っていなかったムーンライダーズの復活ライブ。先日行われた『カメラ=万年筆』のリリース40周年記念ライブに続き、今回は中野サンプラザでの公演です。コロナ 禍を考慮して配信で楽しませて頂きました。

 

家でメモを取りながら観れるので、セットリストを残すことができました。

1. スイマー

2. ダイナマイトとクールガイ

3. ガラスの虹

4. 卒業

5. 悲しいしらせ

6. ヴァージニティ

7. 腐った林檎を食う水夫の歌

8. 今すぐ君をぶっとばせ

9. 駅は今、朝の中

10. Kのトランク

11. 夢ギドラ85'

12. ニットキャップマン外伝

13. ヤッホーヤッホーナンマイダ

14. 工場と微笑

15. Don't Trust Anyone Over 30

(アンコール)

16. 帰還 〜ただいま〜

17. スカンピン

(アンコール2)

18. はい!はい!はい!はい!

 

ということでたっぷり全18曲。一番意外だったのは白井良明さんが歌った「卒業」ですが、これは自分も大好きなカバー曲だったので演奏を観ることができてとても良かった。白井さんは以前も「静岡」なんかを選曲したりして、観客を驚かせてくれる方ですね。

 

その他にも『最後の晩餐』からの「ガラスの虹」やラストで演奏された「はい!はい!はい!はい!」など、意外な選曲が目立つセットリストでしたが、こうしたところで攻めてくるなんて相変わらず渋いバンドです。

 

もうメンバーの皆さんは70歳近い年齢なので健康面が心配ですが、何と来年はニューアルバムもリリースするという奇跡的な話も出ていて、本当に不死身のバンドだなあ、と恐れ入ってしまいます。まるで永遠に活動するかのような勢いです。

 

2011年に『Ciao!』で活動は終了したかと思っていましたが、その後も折に触れて復活し、新作まで出すなんて、一体どこまで元気なのか。ここまで来ると生きる勇気をもらうような気がします。何卒お体には十分お気をつけて、いつまでも頑張って頂きたいと思います。また演奏が観れて本当に良かった。

ビル・エヴァンス『Sunday At The Village Vanguard』

f:id:tyunne:20201031072016j:plain


いやあ、それにしてもビル・エヴァンスはどれを聴いてもいいですね。こういった全作品正解のアーティストというのはたまにお目にかかりますが、今回も遅ればせながら発見させて頂いたという感じがします。僭越ながら。

 

こちらはヴィレッジ・ヴァンガードのライブの1枚目の方ですが、1曲目から痺れます。相変わらず会場のサワサワしたノイズは健在ですが、それを押し切るような音の力強さがあります。しかもグイグイ押してくるというより、骨太で迫ってくるような音。ピアノトリオなので構成はシンプルなのに何故なんだろう。

 

ベースのスコット・ラファロの追悼盤的な意味合いもあってベースソロが多い演奏になっていますが、これはそもそもこの構成とこのメンバーで各々が主張するスタイルだったということだけなのかもしれません。グリグリ弾くというより、押し出されてくるといった感じ。3人とも弾きまくってますし。

 

そうか、ビル・エヴァンスはこんなに良かったのか。今回は名盤4作品を聴きましたが、これはコンプリート系のアーティストですね。今後片っ端からいってみたいと思います。

ビル・エヴァンス『Waltz for Debby』

f:id:tyunne:20201025055952j:plain


61年のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音を収めた本作はとても有名で、ジャケットは様々な機会に目にしていましたが、なるほどこれは素晴らしい。ライブ録音というのもありますが、音がとっても生々しくて臨場感がありました。

 

ジャズのライブ盤というのは結構観客のノイズが入っていて、咳き込む音や話し声、食器の音なんかが随所に聴き取れたりするんですが、これは当時のライブというものが食事とセットで提供される、今でいえばビルボードのような会場で行われているからなんだと思います。

 

以前の坂本龍一のライブ録音でも、観客のノイズを前提に音を聴かせるアプローチがありましたが、このサワサワした雰囲気は結構いいですね。リラックスして聴いている雰囲気が醸し出されていい効果音となっています。まるで自分も一緒に聴いているような感じ。

 

このライブの直後にベースのスコット・ラファロが自動車事故で亡くなってしまうということで、結果的に最後のピークを記録した作品となっていることもこの作品を決定版として押し上げているんだと思いますが、それにしたって内容がいいので、そうしたエピソードは後付けで考えれば良いと思います。純粋に音楽が素晴らしい。