キャノンボール・アダレイ『Know What I Mean?』

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キャノンボール・アダレイはずっと聴きたかったんですが、やっと聴けたこちらの作品は61年録音のビル・エヴァンスとの共演盤でした。

 

二人はマイルス・デイヴィスのバンドで一緒だったこともあるので「仲間」という感じなんでしょうが、それにしてもこの作品はまるで兄弟のユニットのようで、二人の演奏がきちんと味わえる作品です。

 

ビル・エヴァンスの作品を沢山聴き始めていたので、印象としてはどうしてもビル・エヴァンスの演奏にキャノンボールが加わるように聴けてしまうんですが、それくらいここではビル・エヴァンスの演奏がフィーチャーされています。仲間に敬意を評しているんでしょうね。とても微笑ましい。

 

冒頭から「ワルツ・フォー・デビィ」で始まるという憎い演出ですが、キャノンボールのサックスが入ってくると楽曲の印象が明るくなって、軽快でとても楽しい演奏に仕上がっています。ビル・エヴァンスの綺麗な演奏と不思議にも違和感なく同居していて、結果的に聴いていてとても楽しくてお得な感じのする作品になっていると思います。

ゴンチチ『冬の日本人』

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86年リリースのゴンチチ。5作目となります。

 

初期のゴンチチを聴き直していたのは、思い返せば自分の耳がジャズ方面に向かっている兆候だったのでしょう。その後ジャズのラジオ番組に出会って、様々な作品を聴き始めたのが昨年くらいからですが、ゴンチチの聴き返しはしばらくご無沙汰していました。

 

初期のゴンチチの音はアコースティック・ギターのバックに松浦雅也の電子音が鳴っているパターンが多いですが、この涼しげな感じの音が何とも言えない爽快感、爽やかさを醸し出しています。楽園の音楽なんだけれどもベタつかない。

 

この作品でも知っている曲が多いかと思っていましたが、ほとんどが初めて聴く曲でした。しかし一番びっくりしたのは「種明かし」という曲のオリジナル・バージョンです。この曲はかつてWOWOWで放送されたゴンチチの番組で、車をバックに道に座ってゴンチチのお二人が演奏する軽快な演奏が印象的だったんですが、原曲はこんなにゆったりとしていたなんて。アレンジで楽曲は本当に変化しますね。

 

ゴンチチから50年代のジャズに自分の耳が繋がって行った訳ですが、ゴンチチはジャズとは違います。しかし、演奏の熱量にはジャズに通じるものがあるし、自分もそこに惹かれ続けているんだと思います。聴いて心地いいだけではない、演奏家としての魅力。ここが唯一無二の不思議なユニットとして独特の存在になっているのではないかと思います。

矢野顕子『Love Is Here』

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90年代の矢野顕子を再発見する試み。少し遡って93年リリースの作品にたどり着きました。

 

90年代の矢野顕子の魅力はニューヨーク移住後のアメリ東海岸のセッション・ミュージシャンを起用したハイレベルな演奏と、『Super Folk Song』に代表されるようなピアノの弾き語りにあると思うんですが、この作品は80年代の名作群の母性が爆発している雰囲気から90年代のプロフェッショナルな作品群への移行期にある音を感じることができます。

 

2曲で坂本龍一のストリングス・アレンジが聴けますが、おそらく坂本龍一との仕事は時期的にもこれが最後じゃないかなあ。またアート・ディレクション立花ハジメが担当していて、その辺りも80年代の残り香を感じさせます。

 

80年代の母性溢れる家族の幸福感が前面に押し出された雰囲気が90年代は裏返ってミュージシャンシップに向かっていく。ここでの鍛錬は喪失感を味わった上でのフィジカルな活動で、気持ちよりも音楽そのもの、あるいは一種のスポーツのようなもので気持ちとは別の前向きさが生まれていきます。ピアノ弾き語りによる「個」への向き合い方も自らのミュージシャンシップをカバー曲の力を借りて見つめていく過程だったのではないでしょうか。

 

「You're Not Here(IN NY)」みたいな曲を聴いていると当時の辛かった気持ちが伝わってくるかのようですが、音楽の鍛錬はそうしたセンチメンタルな気持ちとは別の世界で展開していく。90年代の洗練された活動はこうした背景に裏打ちされているのではないかなあ、と改めて感じさせてくれる分岐点のような作品だと思いました。

矢野顕子『OUI OUI』

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90年代の矢野顕子を再発見する。前回の『Go Girl』に続いてこちらは97年のリリース作品です。とても良い作品でした。

 

この時期の最大の魅力はニューヨーク勢をゲストに迎えたプロフェッショナルな演奏家を携えて走るクオリティのすこぶる高い演奏にあると思うんですが、ここでは矢野顕子本来が持つ温かさ、ポップな側面がきちんと維持されています。これはおそらく全編の編曲を矢野顕子自身が担っている事による統一感なのではないでしょうか。ハイクオリティでありつつ、とても聴きやすい音楽に仕上がっています。

 

一番耳を捉えるのはやはり槇原敬之が参加した「クリームシチュー」なんですが、ここでのポップな側面と他の東海岸勢参加楽曲が自然と同居していて違和感がない。これがポイントでしょう。クールになり過ぎない絶妙なバランスがあります。たとえパット・メセニーがギターを弾いていても、聴こえ方は矢野顕子の温かい感触がキープされています。

 

「Brooklyn Bridge」という曲でユートピアのカシム・サルトンがコーラスで参加しているのを発見した時には、間接的に矢野顕子トッド・ラングレンが繋がったような気がして嬉しく感じました。

 

想像していた以上にいいアルバムだったので、余り注目されていないのが非常にもったいないと思いました。

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『Meet You At The Jazz Corner of The World Vol.1』

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ジャズ・メッセンジャーズの60年録音作品。こちらはオープニングのメンバー紹介から最高にカッコよくて、あっという間に引き込まれてしまいます。ジャズ・メッセンジャーズの作品にはこういった熱い空間をパッケージした魅力がありますね。

 

リー・モーガンがトランペットでウェイン・ショーターがサックス、ということでこの2管で引っ張っていく感じですが、やはりアート・ブレイキーのドラムがドカドカ鳴っているのが痛快です。バンドの熱量をコントロールしながら煽っている。

 

「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」をどういったアレンジで聴かせているのか興味津々でしたが、やはり随所にリズムのブレイクが入ってとても楽しい音になっています。

 

アート・ブレイキーの作品はどれもスカッとしますね。余計なことを考えないでノって聴ける音楽なので、これからも安心して手に取ることができそうです。

エンチャントメント『Utopia』

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こちらは山下達郎のサンデーソングブックでオンエアされたエンチャントメントの83年リリース作品。かかった曲はアナログでいうB面1曲目の「Don't Fight The Feeling」という曲です。

 

年代が80年代に突入していますので、音の質感がデジタルになって来ていますが、不思議と古さを感じさせない、というかむしろ温かみを感じます。微笑ましいといってもいいかもしれません。こうした音を聴くのはPファンク系かプリンス、Zapp系以来なので久々なんですが、品が良い音の使い方をしているのか、耳の邪魔になりません。

 

曲順の構成がファンク系とメロウな曲を交互に収録する形になっていて、メロウ系の楽曲がやはり耳に残る感じなんですが、こんなアプローチもアイズレー・ブラザーズに似ている面がありますね。

 

ジャケットがちょっと奇抜なので、一見すると手が伸びづらいですが、とてもいい曲が入っている作品だと思います。

マッチング・モウル『Matching Mole』

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72年リリースのロバート・ワイアットが率いたグループの1st。これは確かスカートのラジオ番組で冒頭の「オー・キャロライン」という曲を耳にしたのが手に取ったきっかけだと思います。

 

その曲自体はとても美しくて良いんですが、やはり初期ソフト・マシーンを脱退して作ったバンドの演奏ということもあり、全般的にはプログレ色の濃い、インプロヴィゼーション主体の音楽でした。まだロバート・ワイアットも事故に遭う前だから、ドラムも叩きまくっています。

 

ロバート・ワイアットはその後、美しい音楽の方へ傾いていったので、実際にはソロ作品を聴いてきた訳ですが、こうした演奏主体のハードな側面はちょっとやはり今の自分の耳には合いません。少しノイジーかな。ジャケットは可愛いのに。

 

メロトロンの音も非常に多くの割合を占めていますが、その辺りもちょっと音が古く聴こえる気がします。昨日聴いたカンの作品が2年後とはいえ未来的に響いたのとは対照的に、ちょっと時代を感じさせる。

 

ロバート・ワイアットは結果的に静かで美しい音楽を奏でる人として存在してくれればいい。その中にちょっと存在する前衛性が前面に出ていた頃の作品を今回確認できた、といったところでしょうか。勿論美しさの片鱗も見え隠れしていたということで。