ラリ・プナ『Being Water』

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ラリ・プナの19年にリリースされたEPも配信とアナログのみでCDは出ませんでした。先日聴いた細野晴臣の映画音楽集と一緒ですね。

 

こうしたリリース形態が多いということは、やはり余程CDが採算に合わないということで、出ないよりは配信でリリースしたほうが良い、でも物理的なリリースがないのは寂しいのでアナログを切っておく、ということでしょうか。アナログは単価が高いですが、音がいいのとジャケットの存在感が大きいので、作品としては残す価値がある。しかしなかなか再生環境と経済面から手が出にくいのも現実です。そこで配信の出番となる訳ですね。

 

ということでリリースから随分時間が経って聴きましたが、もう既に自らのスタイルを確立した感があって、その流儀に則って今回は若干生楽器の比率が高い、という感じに聴こえます。基本はエレクトロニカですが、ベースがポップなので聴きやすい。加えて囁くボーカルと控えめな音の粒。順調にキャリアを重ねているように思えます。

 

エレクトロニカも流行り廃りのように捉えられるきらいもある中、こうして伝統芸能のようにスタイルを貫くバンドがいてくれるととても心強く感じます。

リー・モーガン『The Cooker』

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快進撃を続けていたブルー・ノート期のリー・モーガン57年録音作品。ものすごい突進力で迫ってきます。

 

ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズ、ベースはポール・チェンバースということで例によってマイルスのオリジナル・クインテットのリズム隊。この時点で既に悪いわけはないんですが、何より19歳の若さで突っ走るリー・モーガンのトランペットがいかしています。

 

ピアノはボビー・ティモンズで、その後リー・モーガンと一緒にジャズ・メッセンジャーズに加入するパートナーということで、布陣は鉄壁。でもやっぱりパーソネルがどうこうというよりも音ですね。勢いがあるので聴いている方も元気になる。これはこの時期のリー・モーガンはコンプリートだな。

カーティス・メイフィールド『Sweet Exorcist』

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74年リリース作品。70年代のカーティスの作品はところどころにミッシング・リンクがあるんですが、この作品もその一つでした。ソウルを勉強するように聴いていたので、どうしても有名な作品から手をつけがちになってしまって、こうした地味な作品が抜け落ちてしまう。でもこれはいい作品です。

 

タイトル曲も素晴らしいですし、ダニー・ハサウェイとの共作なんてのも入っている。収録時間は短いしジャケットも醜悪ですが内容はバッチリです。なんといっても『Back To The World』の次の作品ですからね。

 

手にしたのはリマスター盤のようですが、曲の最後をぶつ切りにしていたりバックにノイズが入っていたりと若干雑な印象です。オリジナル・マスターがそういう状態なのかどうか不明ではありますが、その点が唯一残念でした。

ウィントン・ケリー『Kelly Great』

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59年録音作品。ウィントン・ケリービル・エヴァンスの後任としてマイルスのグループに参加した人ですが、この作品はとにかくメンバーが豪華です。

 

ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズ、トランペットはリー・モーガン、テナー・サックスはウェイン・ショーター、ベースはポール・チェンバース、ということでこれが悪いわけはない。こちらも元々はラジオで紹介されて探していた作品ですが、聴いていてその安定感にやられてしまいます。

 

ウィントン・ケリーの名前は聴き進めている作品のそこかしこに名前が出てくるので、もはやすっかりお馴染みになりつつありますが、果たしてリーダー作はどうか、とみてみると余り作品数がない。

 

この作品もきちんと再発がなされていたかどうか微妙な感じもあって、余り中古市場でも見かけませんでした。ウィントン・ケリーといえば『枯葉』か『Kelly Blue』と相場が決まっているかのようです。でもこの作品は見逃せないんじゃないの?などと思いつつ、聴き進めていこうと思っています。

METAFIVE『METAATEM』

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コロナ、脳腫瘍、オリンピック、という3つの苦難を乗り越えて、配信ライブの特典という形で世に出されたMETAFIVEの2ndフル・アルバム。危うくお蔵入りになるところでしたが、無事に世に出されて良かった。そして作品も最高です。

 

配信無観客ライブやフジ・ロックでオープニングに演奏されていた1曲目の「Full Metallisch」からいい感じだなあと思っていましたが、どの曲もスーパー・グループならではの各々の個性が融合してかつ個別にも主張する粒立ちの良い音が鳴っていて完成度が高い。

 

しかしやっぱり耳を捉えるのは小山田圭吾の作によるリード・トラック「環境と心理」で、このメロウな展開が今後のグループの化学反応をどのように導いていったかを想像せざるを得ません。つくづく勿体無いと思います。

 

高橋幸宏の作による「May Day」あたりでは例によって壮大なリズムの仕掛けを施しているし、テイ・トウワの「Ain't No Fun」もポップで重厚。「Wife」もいいですね。LEO今井の作「Communicator」では高橋幸宏の語りも登場します。

 

全般にわたって絶好調なので、ここで活動が一時停止してしまったのは非常に惜しい。幻の作品にするにはあまりにも音が充実している。一体何が起こっているんだろう。この後どのように振り返ればいいんだろう。そんな風に思いながら聴いていました。

チック・コリア『Is』

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チック・コリアが亡くなって様々な特集が組まれる中で、大友良英のラジオ番組で紹介された本作からのナンバーが唯一引っかかりました。

 

69年の録音で、当時はマイルス・デイヴィスのバンドに参加している頃。従って、内容的にもエレクトリック・マイルスの混沌とした音作りに似ている面が多々あります。ドラムはジャック・ディジョネット。一時期よくエレクトリック・マイルスは聴いていたので、違和感なく耳に入って来ます。フランク・ザッパの音楽にもちょっと似ているかな。

 

しかし、やっぱりこの独特の音の洪水は一般的にはノイジーだし、発表当時はきっと多くの人の耳には届きにくかったでしょう。もしかしたら今もそうかもしれません。しかしここには混沌の中にもグルーヴがあって、チック・コリアのエレピの音はやはり恍惚感を持って迫ってきます。不思議とこのノイズは嫌悪感を催さない。ドラムの刻みもカッコいいなあ。

 

年末に聴くには少し刺激が強すぎましたが、こんな感じで今年は終わっていきました。

ビル・エヴァンス『Trio 64』

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短命に終わったゲイリー・ピーコックポール・モチアンとのピアノトリオによる63年録音作品。

 

結構な比率でベースのソロパートがあることにまず驚きました。これはきっとスコット・ラファロの影響下にあるんだろうなあ、構成上。

 

サンタが街にやってくる」の斬新な解釈が聴きたくて本作を手にしました。その曲に加えてどの曲も本当に複雑にスウィングしていて、センスの良さが窺える素晴らしい演奏となっています。本当にビル・エヴァンスの作品にはハズレがない。何度も同じことを書いていますが、本当にそう思います。