高橋幸宏『IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜』disc 3 tIME and pLACE


3枚目はライブ盤として当時もリリースされた作品のリマスターです。時期的には83年のライブですので、YMOの『浮気なぼくら』の後。すなわち日本語ポップスが前景化して来ている頃となります。従ってこの作品でも思い切りその傾向が表面化している。

 

批評でよく使われる「ウェルメイド」という単語は嫌いな言葉のひとつですが、ここではまさにその言葉がしっくりくるくらい、結構な割合で甘い世界観が提示されています。ここがTENT時代により鮮明になっていって、ちょっとついていけないところまで行ってしまったのが最初に高橋幸宏作品から個人的に離脱した原因でした。しかし、後になって見直していく心痛期に繋がってはいくんですが。

 

音がフラット、平面的、奥行きがない、という印象を持ちました。しかしそれはマイナスではなく、総体として耳に迫ってくる感覚があって、ライブ作品としては迫力があります。それにしても歓声がすごい。この時期のYMOは女性のためのものだった。JAPANから直結している感じですね。男性はその後しつこく聴き続けるので、後から効いてくるイメージです。

高橋幸宏『IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜』disc 2 YUKIHIRO TAKAHASHI TOUR 1982 WHAT ME WORRY?

2枚目は凄いことになっています。前半にもゲストで出てきた鈴木慶一に加えて、坂本龍一加藤和彦、そして最後にはデヴィッド・シルヴィアンまで出てきてしまう。これはもうYMOとJAPANとミカバンドが一緒になったような話で、82年の時点で既に高橋幸宏は自らの活動の集大成をステージ上で表現してしまっている。ここら辺は人柄のなせる技で、後年のワールド・ハピネスに繋がっていくように思います。

 

セットリストも凄くて、初っ端は立花ハジメの「H」に始まり、同時期にリリースされた細野晴臣のソロ『フィルハーモニー』から「Sports Men」も演奏されます。これなんかを聴いてると昨今のカントリーバージョンでのリバイバルとほとんどノリが変わらない。今も昔も楽しかったんだな、と感慨深く聴けてしまいます。

 

坂本龍一が黄色い歓声で迎えられた後に演奏されたYMOの楽曲「Key」とラストの「Cue」を聴いていると、前年の81年のウィンターライブでのクールな音と、その後の散開ライブでの暖かい音との中間を行っていて、かつ豪華メンバーで彩られる音が祝祭感を増し増しにしていて非常に楽しい。この感覚は同時期のJAPANの解散ライブにも似た大団円ぶりです。とても楽しそう。これは幸せな音源を手に入れました。

高橋幸宏『IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜』disc 1 YUKIHIRO TAKAHASHI TOUR 1982 WHAT ME WORRY?


高橋幸宏の再発プロジェクトはライブ音源のボックス化で集大成化を図りました。ここはやはり手に取るべきでしょう。ジャズの作品ではないですが、メンバーが豪華なのでパーソネルを記載しておきたいと思います。

 

高橋幸宏(vo)

細野晴臣(b)

土屋昌巳(g)

立花ハジメ(sax)

ティーヴ・ジャンセン(ds)

 

ということで、82年というYMOやJAPANの活動の狭間に奇跡的に揃った面子でのステージです。音源は初めて聴きましたが、『WHAT ME WORRY?』からだけでなく『ニウロマンティック』や『音楽殺人』からも選曲されていて楽しい。ただ、若干前半の音質に難あり、という感じかな。恐らくは元の音源を大変苦労されて修復されているんだと思います。観客の黄色い歓声も凄まじい。ビートルズみたいですね。

 

やはり『ニウロマンティック』の収録曲のライブが素晴らしい、というより貴重だと思います。日本語ポップスに移行する前の鋭いタッチの音作りがヒリヒリと伝わってくる。これをこの面子でライブでやられては堪らないでしょう。

 

高橋幸宏さん、最近は体調が心配ですが、何卒お元気な姿をまた見せて頂きたいものです。

ビル・エヴァンス『Everybody Digs Bill Evans』


ビル・エヴァンスの58年録音、2作目のリーダー作品です。ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズ、ベースはサム・ジョーンズとなります。

 

ビル・エヴァンスの初期作品は余り手を出さずに来ましたが、先日観たドキュメンタリー映画でもこの作品を絶賛していたプレーヤーがいたので、中古屋で見かけて思わず手が伸びました。

 

ここではやっぱり「Peace Piece」が収録されているのが大きい。既に圧倒的に美しい演奏です。全体的にはフィリー・ジョーのリズムに煽られた勢いの良い演奏も目につくんですが、それでも既に和音爆発の耽美な世界観が確立しつつあって、オリジナリティが出ているように感じます。で、勢いの良い演奏もそれはそれでいいので、結果的に全部いいということになりますね。

 

ビル・エヴァンスもハズレがないので、ここのところ信頼感のあるアーティストを複数発見しているのが嬉しいところです。

NRBQ『All Hopped Up』


77年リリースのNRBQ5作目。ジャケットの印象と異なり、これはかなりいいアルバムです。

 

とにかくイントロからいい。ポップな曲が満載、というより全編いいですね。これは愛聴盤になりそう。NRBQもハズレがないなあ。どの曲もいいですが、「Things To You」あたりのカラッとして尚且つグッとくるギターの爽やかな音に導かれる感じなんかが素晴らしいと思います。

 

このNRBQというバンドは最近愛聴しているスカートの澤部渡αステーションでの番組「NICE POP RADIO」で紹介されたのをきっかけに聴き始めたんですが、これは良いバンドを紹介してもらいました。この番組は素晴らしい、と今週の回でもココナッツ・ディスク吉祥寺店の店長さんが絶賛されていましたが、まさに自分もその恩恵に被っている一人です。

 

まだまだNRBQ道は道半ばですが、少なくとも今まで聴いた中ではこのアルバムはピカイチです。何度でも聴きたくなる作品ですね。

ミレニウム『Begin』


ここ最近、スカート澤部渡のラジオ番組を欠かさず聴いていますが、こちらの作品もその番組で紹介されたもの。以前、お茶の水JANISでソフトロックを大量にレンタルして聴いていた際にこのアルバムも聴いていましたが、当時はMDに録音していたので、MDプレーヤーと共にコピーした作品も廃棄してしまいました。そのため久々に聴いたことになります。

 

澤部さんもコメントしていましたが、とにかく68年リリースの割にはアレンジが非常に洗練されていて、とてもじゃないけど古い作品とは思えないくらいの洒落た展開が随所に見られます。最初に聴いていた時はコーラスにばかり耳がいっていましたが、今回はベースラインに特徴があると思いました。

 

アコギの鳴らし方なんかも洒落ていて、一緒アンディ・パートリッジのプロデュースしたピーター・ブレグヴァドの作品を思い出しましたが、これはきっと数多のポップ職人が聴いて参考にしている作品だろうと推測します。よくできている楽曲が多い。というより全編よくできている。カート・ベッチャーという人が才人だったんでしょう。

かしぶち哲郎『Fin 〜めぐり逢い〜』


かしぶちさんが亡くなってしまってはや10年近くが経とうとしていますが、今年は久々にムーンライダーズも復活して活動が活発化しているので余計にその不在感を味わうことになった年になりました。

 

そんなかしぶちさんの93年にリリースした作品。会社の先輩から勧められたのは最終作の『LE GRAND』の方でしたが、ちょっと勘違いしてこちらを手に取ってしまいました。たまたま店頭にこちらがあっただけなんですが・・。

 

かしぶち哲郎さんのソロ作品はどれも映画音楽のようで、楽曲としてはフワッとした感じで通り過ぎてしまうような気がして余り手が伸びなかったんですが、今この年齢となってはこうした静かな音楽の方が心地よく感じてしまいます。邪魔にならない。

 

そんな中でもかしぶち作品の金字塔は石川セリのプロデュース作品だと思っているので、その認識を変える作品を探さなくてはいけません。見逃してきたカタログなので、またこちらも気長に探していきたいと思っています。