牛心親父の叫び

#本文は1996年7月号に掲載されたものです。

 キャプテン・ビーフハートという偉大な親父がいる。その音楽は一般的には人の耳を寄せ付けないが、Zappaの旧友ということで根強いファンは多い。

 現在は画家、ドン・ヴァン・ヴィレットとして活動しているらしいが、消息は定かではない。

 キャプテン・ビーフハートの音楽はノイズなのだろうか。そうではない。POPだ。元はブルースだろうが、その構成、アイディア等、まさに「マジック・バンド」と呼ぶにふさわしい。

 キャプテン・ビーフハートを初めて耳にしたのは、FM東京でのZappa特集であった。Zappaのプロデュースした作品の一つとして「Ella Guru」が紹介されたのだが、その分裂ぶりは私の耳を奪うと共に、いささかの嫌悪感をもようさせるのに充分の刺激だった。

 「Trout Mask Replica」というサード・アルバムを、新宿のVINILで8,000円で購入して聞いてみたら、これが素晴らしかった。2枚組、全28曲すべてがぶっ飛んでおり、正直驚いた。琴富士の優勝より驚いた。

 しかし、「Sugar'n Spikes」「When Big Joan Sets Up」といったPOPな楽曲は私の耳を捕えて離さず、ギターの複雑かつ下手ウマな絡みは大変魅力的であった。「Pena」での強烈なボーカルとバックトラックの無関係さにも鳥肌が立った。

 そして何年か後にビートクラブの第8集に収録されている彼等の映像を見た。これがまた凄いのである。

 「一体何者なんだ?」と思わせる風貌から出される叫びには、何ともいえないカリスマを感じる。バックがまたいかしている。ズート・ホーン・ロロのスライドギターは最高だし、動き回るエリオット・イングバー、何とリトル・フィートにいたロイ・エストラーダまでいる。しかもカラーで動いているとあっては堪らない。一発でノックアウトされることは間違いない。

 XTCが「Ella Guru」の完コピをやっていたが、アンディ・パートリッジは「キャプテン・ビーフハートはPOPだ」と言い切っている。自分の感覚は間違っていなかった、とその時感動したものだ。

 現在、各作品がCD化されているが、Zappaを色眼鏡で見る輩にこそ聴いて欲しい。