雑葉推薦文

#本文は1997年3月号に掲載されたものです。

 フランク・ザッパの「レザー」という大作が19年ぶりに日の目を見た。これは非常に凄いことなのだが、ファン以外にとっては、さしたる大事件ではないだろう。

 フランク・ザッパの音楽は、一般に難解であるとか、訳がわからないといったイメージで捉えられているが、それはその音楽が多彩なジャンルをクロスオーバーし、かつ猥褻な歌詞を堂々と下世話に歌にしていることによるところが大きい。その「レザー」を聴けば一発でその内容が理解できると思われる。

 しかしながら、私は単純にギターマスターとしての彼が好きだ。神格化するより余程健全な聴き方だと思うのだが如何であろうか。

 「レザー」はビーチ・ボーイズでいえば「スマイル」、ムーンライダーズでいえば「マニア・マニエラ」、プリンスでいえば「ブラック・アルバム」といった例えで説明すればご理解いただけるだろうと思う。

 要は「お蔵入り」アルバムである。その内容のややこしさにワーナーが難色を示したため、発売を拒否した代物である。どういった経緯かわからないが、死後3年目にして正式にリリースされたのである。

 正直言って出るとは思わなかった。ピンク・フロイドみたいな牛のジャケットを輸入盤で見かけた時はてっきりブートかと思ったが、こうして7800円払って手にしてみると、全くもってリアリティがある。同日に購入した元プリンスの「エマンシペイション」もCD3枚組でかつワーナーからの解放を意味しているというのも奇妙な符合である。

 とにかく1977年時点でLP4枚組であるからして「誰が買うの?」とワーナーが思ったのも企業側の論理からしてみれば頷けなくもない。でも、こうして世紀末にリリースされたのだから単純に良しとしよう。

 「レザー」の曲はその後、「ザッパ・イン・ニューヨーク」「スタジオ・タン」「スリープ・ダート」「オーケストラル・フェイバリッツ」の4作品として無断で切り売りされ、一応は世に出ている。(正式なことを言えばきりがない。)それの原形がどういうものだったか、大変興味をそそられた。

 感想はやっぱり「カッコいい」の一言に尽きる。とにかく凝縮されている。前述の4作品の中で、個人的には「スリープ・ダート」が一番好きなのだが、「Shut Up'n Play Yer Guitar」が好きな私としては「シップ・アホイ」がA面4曲目で別形態で収録されていることは大変嬉しい。しかもイントロがこの部分から始まってしまうという泣かす構成も見逃せないし、その後の短いソロも鳥肌モノである。

 また、「シーク・ヤブーティ」での、曲間をスタジオ内のメンバーの会話やオーケストラの断片で繋いでしまうという特異な手法が元々「レザー」のものであったというのも感動的かつスリリングな事実だ。

 続く5曲目の「ダウン・イン・ザ・デュー」。これも失神モノのアンサンブルだ。「アポストロフィ」で聴かれるジム・ゴードンのドラムがここでも堪能できる。このフィルといったら・・・まずもって素晴らしい。

 但し、通して聴いてみると浮上するのはやはり「スリープ・ダート」収録曲のクオリティの高さである。元々が「ホット・ラッツ」パート3として評価が高く、廃盤のオリジナルを探すのも大変困難な作品だが、何より曲がいい。また、ザッパのアコースティック・ギターもなかなかに貴重かつ壮絶だ。

 冒頭1曲目が「レジプシャン・ストラット」、他にも「フラムベイ」「フィルシー・ハビッツ」等、全曲肝になる位置に配置されている構成からも、これは間違いない見解と思われる。正直、「パープル・ラグーン」や「グレゴリー・ペッカリー」は若干長尺過ぎて苦しいが、それでもそれがこの大作を否定する理由にはならない。

 ギターマスターとしてザッパを意識したことのある人なら、必ずこの作品は愛聴必至だ。

 そらからもう一つ、個人的に私はディスクリート時代のバンド(当時はツインドラム、かつキーボードにジョージ・デューク、パーカッションにルース・アンダーウッドがいた)が一番好きなのだが、その後参加したドラマーが、私がエイズリー・ダンバーの次に尊敬する人であることも触れておきたい。

 テリー・ボジオ、その人である。何てったって力強いし、正確だ。ザッパは長いバンド活動の中で、この男とスティーヴ・ヴァイだけは信用していたのではないだろうか。

 ところで、ザッパのオフィシャルリリースは60枚以上にのぼるが、私が個人的にお勧めするのは、ざっくりと以下の5作品である。

「アンクル・ミート」
 1969年作、7作目、2枚組。現代音楽の要素も強いので、少々とっつきにくいが、初期の記念碑的作品である。私が最初に購入したザッパのアルバムであるが、買ってすぐ中古盤屋に売ってしまう人も多い。

「グランド・ワズー」
 1972年作、16作目。ジャズ色が強い。曲は長いがキャッチー。ジャズやフュージョンの好きな方なら充分理解できるはずである。

ロキシー&エルスホェア」
 1974年作、19作目。2枚組ライブ。前述の最強の布陣による壮絶な演奏。B-4のジョージ・デュークのソロは圧巻である。

「ワン・サイズ・フィッツ・オール」
 1974年作、20作目。その最強メンバーによるスタジオ盤。ジョニー・ギター・ワトソンも参加している。本作での演奏も失神しそうになる。

「You Can't Do That On Stage Anymore Vol.1」
 ザッパライブの集大成的作品の第1弾。Vol.6まである。1987年作、47作目。これさえ聴けば、ほぼザッパの全容がわかる。但し、2枚組で28曲も入っている。

 その他、ギターソロとしては「ズート・オールアーズ」の「ブラック・ナプキン」や「シーク・ヤブーティ」の「Rat Tomago」、「ギター」の「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」、極め付きの3枚組「Shut Up'n Play Yer Guitar」等、挙げればきりがない。

 とにかく一聴の価値ありだと思うので、是非、中古盤あたりで1枚買って聴いてみて欲しい。ザッパを色眼鏡で見るのはもうおしまいにしよう。それでも受け付けなければ仕方のない話だが・・・。