キャプテン・ビーフハート『Bat Chain Puller』

f:id:tyunne:20181023212935j:plain

出ました!隊長の未発表作。元々は76年にリリースされるはずだった『スマイル』『マニア・マニエラ』並のお蔵入り作品。こいつが正式に世に出るなんて・・。何て我々は幸せなんでしょうか。

マジック・バンドのメンバーが去ってザッパの支援を受けて『ボンゴ・フューリー』を出したのが75年のこと。その後録音されながら契約のゴタゴタでお蔵入りとなり、『シャイニー・ビースト』や『美は乱調にあり』等に分けて楽曲が収録されたという、まさに『スマイル』的な経緯をたどった意欲作。一度『Dust Sucker』としてリリースされましたが、やっぱりいい音で聴くと違いますね。迫力が。

後期ビーフハートは信奉者の若手を取り込んで初期ヘタウマの演奏がより意図的な演出でしっかりと隊長の理想を体現する形で痙攣しそうな演奏を繰り広げる、しかも意外とポップな曲の多い実り多き時期だったんですが、その原点に居座る出発地点にあるアルバムだと思います。ジョン・フレンチの復活が大きいですよね。天才肌のひらめきを譜面に落としてきっちり練習して一見バラバラにみえる不思議な楽曲群を実はきっちり構成した混沌として世に差し出すという離れ業。手間はかかったでしょうが、そのお陰で唯一無二の魅力を携えたある種現代音楽的な、でも実はブルースな宝石群を形にしている。これが当時出ていても世の中は変わらなかったでしょうが、もしかしたらその後の作品が方向性を変えていたかもしれない。そういう意味ではお蔵入りはやっぱり残念ですよね。

ザッパの死後はこうした発掘音源をきっちりリリースしていってくれるのでありがたい限りですが、もう本人達はこの世にいないことを考えると何だか切ない気がします。でも聴く方は「生きてて良かった」と思っちゃうんですよね。70年代がきちんと整理されて何ともいい時代になりました。