KIRINJI『11』

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毒が戻ってきた。

新生キリンジのリスタート・アルバムは弟脱退の後にコトリンゴ千ヶ崎学田村玄一、楠均、弓木英梨乃を加えた6人編成のバンドとして蘇りました。発足から1年後に届けられた待望の新作です。

ここ最近のキリンジは弟脱退を控えていることもあってか、比較的シンプルな楽曲が中心となっていて、少し食い足りないところも見受けられたんですが、新作では見事に復活しています。兄の複雑な楽曲が全編を覆うという期待半面、昨今のシンプル路線の継続という予想半面といった感じでしたが、バンドならではの多面性を見せる仕上がりで、いい意味で予想を裏切ってくれました。

何より大きいのはコトリンゴ弓木英梨乃という女性二人を配したこと。他のメンバーは気心の知れたスタジオ・ミュージシャンですが、この二人は各々の個性とオーラが際立っている。ピアノとギターでそれぞれ突っ走る様も爽快です。更にそれぞれにリード・ボーカルをとらせるという奇襲に打って出ている点も見逃せません。これは堀込高樹のプロデューサーとしての力量が発揮された作品ですね。天晴。

楽曲にも本来の毒性が戻ってきていて、そこにバンド・アンサンブルが被さることで更に価値を増している。ここは意外な展開でした。実際には構築型からメンバーへの権限委譲型にスタイルを変えたようですが、ここは吉と出ましたね。何度でも聴きたくなる曲が多い作品に久々に仕上がっていると思います。

思えば弟泰行の志向は比較的シンプルな方向性でしたので、そこが外れることで本来兄が持っていた毒性が前面化するのは自然な流れです。そこに化学反応を加えるというのがバンドとして再スタートする必然性だったのでしょう。素晴らしい。

既にライブで話題になっている弓木ちゃんのニコニコしながらギターを弾くステージングも付属のDVDで確認できますが、この彩りがまたバンドに華を添えている。今のところ完璧なスタートを切れたんじゃないでしょうか。長くこの体制で続けて欲しいと願うばかりです。