鈴木博文『後がない』

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6年ぶりのソロアルバム、ということで還暦を祝して『後がない』とは何とも皮肉なタイトルです。前作『凹凸』との間にいくつかライブ盤がリリースされていたり、自主制作で様々なリリースがあったりと、活動は非常にコンスタントですが、ムーンライダーズのメンバーの中でも特に活発にリリースを続けている方なので、公式なソロに間が空いたことが意外に映ってしまいます。

佇まいはあくまで静か。曲調も安定していますが、今回は少し音がスッキリした印象がありました。前作の『凹凸』がかなりゴリゴリした音だったので、少し耳に押し寄せてくる強さに耐え切れない面もあったんですが、今回そうした強さが残っているのはタイトル曲くらいで、後は整理された綺麗な音が鳴っている印象があります。ところどころに電子音が散りばめられているのも細やかな印象を残す要因かもしれません。

曲の傾向はこれまでの作品のエッセンスを総括したような様々な博文節が並びますが、中でも「埋伏の炎」が良かった。このあたりの明るさと渋さが丁度良くブレンドされたような曲が全面を占めるとまた素晴らしい作品が作られるのではないでしょうか。混沌をありのまま提示するアルバムが多いので、実はひとつのテーマに集約して作品化すればいきなり名作になってしまう可能性を秘めている。そんな気がします。