砂原良徳『LOVEBEAT』

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前作から3年の歳月が流れて世紀を跨いでリリースされた本作は、打って変わってストイックな音の世界が広がる作品になりました。一聴するととても地味な印象なんですが、その奥行きは深い。ジワジワと始まるタイトル曲が持つ永続性は中毒気味にもなりますし、映像作品とも相俟って脳内に記号が広がっていくような感覚を覚えます。

同年にリリースされたコーネリアスの『point』とも相通ずるところがあって、世紀が開けて静かな日常の中に点描法のように音を置いていくような引き算の音楽は狂騒の時代を駆け抜けて世の中が下降線をたどっていきながら次第に穏やかになっていく無常観を表現していたと思います。これを当時小山田圭吾は「時代のムード」とコメントしていました。

音のふわりとした印象の割にはビートは鋭くて、音色自体の選び方は鋭角的。装飾品をなくした骨組みのような音楽に当時は聴こえていましたが、今の耳で聴くと意外と多彩な印象も与えてくれます。ややもするとBGMに聴こえてしまう音に深堀していくと隠れた音像が浮かび上がって来るような素晴らしい到達点。ここからの砂原良徳の音楽は1ミリもぶれていないような気がします。