トッド・ラングレンの72年リリースの3rdは2枚組の傑作となりました。リードトラックの「I Saw The Light」はトッドの代表曲として余りにも有名。しかしその質感は意外と稚拙なものだったりします。
LPのA面からC面まではトッド独りの多重録音。ここでのトッドのドラムが揺れているというのはよく言われるところですが、要するに左程上手ではないんですね。しかしそこに味がある。そして何より楽曲の魅力度がすべてを上回って聴く側に恍惚感を与えてくれます。トッドのコードワークとそこに乗るメロディの化学反応は構造的にも天才肌で、坂本龍一もサウンドストリートでよく「I Saw The Light」をかけていましたが、大好きと言ってました。
ボリュームがあるので聴きどころは多いですが、やはり自分は「The Night Carousel Burned Down」から「Saving Grace」への流れと「Couldn't I Just Tell You」から「Torch Song」への流れ、そしてD面でのバンド演奏の楽しさにやられてしまいます。
最終面でのスタジオ内での会話も収めた流れは本当にそこに自分もいるかのような臨場感で、かつ名曲が次から次へと展開される。しかもそれまで宅録の独り芝居だったものがガラッと変わってクオリティの高い演奏へ様変わりする展開、これは本当に夢物語のようです。やはり珠玉のメロディが畳み掛けて来るのが中毒性を促進するんですね。素晴らしいアルバムだと思います。
トッド・ラングレンとアンディ・パートリッジという人は唯一ビートルズのエッセンスを昇華して次の次元に持っていけたアーティストだと思います。フォロワーの詰めの甘さがこの二人にはない。かつ別ルートの影響、トッドで言えばフィラデルフィアソウル、アンディで言えばサイケデリックという要素も組み合わせてポップスとしての進化を成し遂げた、という意味で偉大だと思います。
カッコいいし素敵な時間をいつでも与えてくれる、とても良い作品だと思います。