89年リリースの本作は孤高の1枚。細野晴臣の80年代後半はノンスタンダードとモナドのテイチク時代。ここでのFOE絡みの活動はいささか常軌を逸していて、氏の骨折によってその狂騒の時代は幕が下ろされます。『SFX』から5年を経てリリースされている本作の、まるであの世の一歩手前に立つかのような彼岸の音楽は、唯一無二でかつ落ち着いていて未来的。繊細で示唆的。とても良い方向に転換したと思います。
そしてこの後、細野晴臣はアンビエントの海の中に入っていく。それが90年代となります。世紀が明けてからはスケッチ・ショウを皮切りとしたYMOの復活、そして自らのルーツを探り当てたカントリーへの接近へと続く訳ですが、この90年代というのが難解で、かつご本人にとってはとても重要な時代だったんだそうです。その探求は骨が折れますね。
楽曲的には美しい「エサシ」から始まって「アンダドゥーラ」「オレゴン・ボックス」と佳曲が続きます。そして静かなる圧巻「プリオシーヌ」で終わるとても美しい展開。湾岸戦争が始まる前のアラブへの接近とワールド・ミュージックの波に先駆けた彼岸の音楽、そしてアンビエントへの入口付近まで迫った序章としても楽しめる希有な作品に仕上がっています。