『ロック画報読本 鈴木慶一のすべて』

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ロック画報が偉いのはサンプラーCDがついているところです。今回は鈴木慶一特集ですが、98年のソロツアー音源をCD化してくれました。

元々鈴木慶一の本が出る出ると言われていて結局延期になり中止になり、結果としてロック画報が引き取ったという形でやっと陽の目を見た本ですが、なかなかに充実していて希有な特集本となったように思います。そして98年ライブ音源ですが、なによりこの時期にソロツアーをしていたという記憶が薄い。丁度『月面讃歌』直後ということで、90年代後半は自分は結婚直後で子供も生まれたりしていたので、ここまでフォローできていませんでした。

ギター一本、あるいはアカペラで歌う趣向で、とても生々しい歌が聴こえてきますが、元来裏が上手な人ではないのと、難聴などの原因で音程が安定しない時期を過ごしていた頃の歌声なので、若干危うさも内包した歌となっています。でもまったく気にならないかな。「ヴィデオ・ボーイ」が「シリコン・ボーイ」と混ざっていて正真正銘連続していることを思い知らされます。

「月にハートを返してもらいに」は少し後の録音ですが、これもまた味わい深くていいですね。バックの音は「Last Serenade」みたいだな。

鈴木慶一という人は細野晴臣と同じで実はバンドサウンドから打ち込みまで振れ幅の広い音楽をやっている人なんだなと今更ながらに実感しました。細野晴臣の場合はそれがはっぴいえんどYMOという形で異なるバンドとして世に出ていたから振れ幅の広さが分かりやすいんですが、鈴木慶一の場合はムーンライダーズという同じバンドの中でその振れ幅が出てしまっているので、バンドの音の変遷の中に幅広さが隠れてしまう。でも実は何でもやる人なんですよね。この要素が同じ人の中にあるということが凄かった訳ですが、今となっては聴いている方もその振れ幅に対応できるようになってしまっているので、今更ながら敢えて振り返ることは少ない。でも実際には物凄いことだと思うんです。