細野晴臣『泰安洋行』

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非常に特殊な音楽ですが、これが後のYMOの原形になる考え方であり、この時点で早過ぎた覚醒と頂点を極めた傑作であると断言できる作品です。

ニューオーリンズと沖縄、また世界のどこでもないエキゾチック趣味、日本を海外から見た時のイメージを逆利用して身にまとった振る舞い、といった様々なフェイクを吸収して何のてらいもなく自然にスッと提示するカッコ良さ。リズムへの飽くなき探求とメロディのキャッチーさ、短時間で聴くものを虜にする素晴らしい旋律。非常に奥深い音楽です。

エコーを一切排したダイレクトで乾いた音の鳴り方も特殊です。山下達郎が絶賛してこの後の『はらいそ』でのエコー音に苦言を呈したというのも有名な話です。

表題曲で鳴り響くマリンバの調べ。ここに本質が隠れているように思います。実際中華街ライブでもご本人はマリンバを演奏されている。その御姿はまるで皇族のようです。しかも40年経った今でもその謙虚な佇まいが変わらないという恐ろしさ。ここで打ち立てたコンセプトの普遍さがよく分かります。

火の玉ボーイが細野晴臣なら東京シャイネスボーイは鈴木慶一。ここで聴かれるグルーヴの渋くてさりげないこと。どこを切ってもおいしいケーキのような音楽ですが、最も象徴的に鳴りがいいのは「Pom Pom 蒸気」かもしれません。一拍子という技は後進に伝授されているのか。林立夫の本作への貢献は計り知れません。