KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』

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キリンジの新作はEDM寄り、との触れ込みでしたが、聴いた感触はさほどでもなかった。かつて『DODECAGON』で初のセルフプロデュースを行った際に、思い切り打ち込み系に振れたことを思えば、今回の変化もそんなに驚くほどではないと思います。いずれもメロディ主体であることは変わりないし、あくまでツールのひとつにすぎない。それをツール以上に扱うのはやはり堀込高樹の手法ではないのでしょう。

とはいえキリンジは良質なポップスを世に提示していくバンド、というセルフイメージから脱却させたい、時代の流れにはごく自然に寄り添いたい、といった思いは伝わってくる。それは悪いことではないですが、一時期以降のトッド・ラングレンのように振り切ってしまうのだけは避けた方が良いし、そうはしないだろうと思っています。

前作の『ネオ』では「Mr. BOOGIEMAN」が非常によかったんですが、今回でいえばそれは3曲目の「非ゼロ和ゲーム」になるでしょう。いいですね、このさりげない複雑さ。利他的、利他的、というのも面白いです。

しかしどうだろう。コトリンゴ脱退による器楽的要素の後退は、結果論とはいえ少し勿体無いのではないか。それがエレクトロファンク路線への興味と同期して結果今回のような路線になった、というのは一時的な現象に留めるべきとやはり考えます。パブリックイメージへの回帰はファンサービス以上に自らを癒すはずです。そういう歳にもうなっていくのではないでしょうか?等と勝手に妄想しています。