YMO『BGM』

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81年リリースのこの作品がやはりYMOのピークではないでしょうか。この作品の意味合いというのは2つくらいあるように思います。

 

ひとつはここでリスナーが振るいにかけられたこと。とても美しい反面、とても暗い音楽ですので、それまでの華やかなテクノポップからは大分離れた音が奏でられています。内省的で一回聴いただけではよく分からない。直感的というより思索的なんですね。ここについて行けるかどうか。今のYMOのファンはここでどっぷりとハマっていった訳です。

 

もうひとつは、ここからバンド名が「YMO」という表記になったこと。それまではイエロー・マジック・オーケストラでした。しかし、既に前作の『増殖』でのスネークマンショーのコントへの客演でメンバーから「YMO」の名前は出ていますし、世の中ではもうこの略称で通りつつあった。でもアルバムのジャケットに「YMO」と刻印されたのはここからでしょう。YMOは時代を象徴するアイコンになったのです。

 

しかし、このアイコン化がメンバー達のストレスになった。世界に向けての80年代日本代表、みたいにさせられるし、国内では売れに売れてアイドル扱いだし、ということでその反動から思い切り芸術的な作品が生まれた。そこで産み落とされた産物はとても異形で、でもデカダンで美しく、かつ最先端で温かかった。奥行きがある音楽なので賞味期限も長い。発売の時点で既に古典でした。

 

自分も最初はあまりに暗くて難解で理解できませんでしたが、徐々に中毒のようにはまっていきました。何がきっかけだったのかは覚えていません。ただ聴けば聴くほど発見があったのは事実です。

 

今回のリマスターですが、思い切り音が変わったということはありませんでした。ただ、音量をあまり上げなくても耳に迫ってくる迫力がある。低音もそうですが、高音、特にリズム系の細かい音がきちんと聴こえるように感じました。『BGM』は全体的にモワッとした音ですので細部が隠れてしまうんですが、そこがきちんと立ち上がっているような気がします。

 

次作の『テクノデリック』でさらに感覚は研ぎ澄まされて、よりフィジカルに、肉感的になっていく。その一歩手前のロマンティックな音が強い意思の元に鳴っている作品です。