ムーンライダーズ『moonriders LIVE 2022』

9月に行われたムーンライダーズの『It's the moooonriders』レコ発ライブが配信されました。観に行けなかったライブでしたので、配信で楽しむことができて非常に嬉しい。

 

今回は新作の楽曲が中心に演奏されましたが、何といってもオープニングとエンディングが格別だと思います。作品でも冒頭と最後が強烈な印象を残しましたが、このライブでは恐らくもう二度と行われないであろう演出を観ることができました。

 

オープニングはいきなり鈴木博文のピアノから始まります。佐藤優介と二人のセッションですが、これは強烈です。ピアノうまいなあ。1曲目の「モノレール」はメンバーの非同期なトーキングが展開される不思議な曲でしたが、それをライブで再現してかつその後「ボクハナク」に繋げていく。この演奏は本当に感動的でした。もうこれだけで終わってもいい。

 

「ボクハナク」では鈴木博文のボーカルに続いてスカートの澤部渡がボーカルを取ります。こうしたシーンは全体を通して何度も目にするんですが、このボーカルリレーに何故かグッときてしまうのは、ムーンライダーズというバンドの遺伝子が次世代に引き継がれていることを証明する瞬間だからなんだなあ、と今回改めて感じました。受け継がれていくことに対して感動する気持ちは長くファンをやっている人特有の感覚かもしれませんが、それにしても美しい。

 

鈴木博文はちみつぱいでいえば渡辺勝のような立ち位置になってきているような気がします。鈴木慶一に対するカウンターカルチャーとしてこれまでも存在してきましたが、益々そのスタンスが表現されている。

 

これがオープニングで、エンディングは「私は愚民」のインプロヴィゼーションが展開されます。これは予想された展開でしたが、驚くのは観客を退場させる間にもずっと演奏をやめないこと。幕が降りているのにバックで嬉々として演奏を続ける。これは異様な光景でした。

 

演奏も凄くて、特にドラムの夏秋文尚がシンバルを外して手に持ちドラムセットをガンガン叩く光景はかなり暴力的。これはザ・フーが演奏を終えた後に楽器を壊して去っていく光景を想起させます。そこまで破壊はしませんが、演奏は破壊的。やっぱりマザーズを思い出しました。『いたち野郎』のエンディングみたいですね。

 

幕が降りる直前に鈴木慶一が指揮者となって演奏を止めたり再開させたりしますが、この所作はフランク・ザッパのようです。鈴木慶一本人も演奏中に「How Could I Be Such A Fool」と何度も呟いていますが、これはザッパの1st『フリーク・アウト』の楽曲名です。かつて鈴木慶一はザッパがやっていたジャンプして拍子を変えるパフォーマンスを練習してなかなかうまくいかないと話していました。 それがここへきて異なる形で成功しているのは感無量ですね。

 

ということでオープニングとエンディングの異様さが突出したライブだったんですが、中盤で登場するゲストDaokoがとても綺麗でした。新作でもゲストボーカルで参加していた「再開発がやってくる、いやいや」で登場するんですが、こうした綺麗な人が参加すると男子の部活のようなムーンライダーズの面々は皆照れてしまう。その感じがとても可笑しかった。

 

Daokoさんの参加楽曲は3曲ありましたが、ここで「ニットキャップマン」をやったのはちょっと勿体無いかな、と思いました。矢野顕子パートを歌っていましたが、この綺麗なビジュアルとコミカルな楽曲のアンバランスが目立ってしまって、ちょっと残念でした。ここは野宮真貴の参加した「M.I.J.」みたいな曲の方が良かったのではないか。佐藤奈々子の参加した「欲望」なんかも良かったかもしれませんね。

 

今回の新作以外からの選曲は案外と王道路線だったのでさほど驚きはありませんでしたが、やはり楽曲の良さとボーカルの艶っぽさで感動を呼ぶ瞬間が何度か訪れました。「夢ギドラ'85」や「D/P」といった素直にいい曲を白井良明澤部渡の歌声で丁寧に語られると聴いている方は参ってしまいます。素晴らしい奥行きを手に入れていますね。

 

蛇足ですが、武川雅寛のドスの効いた声には最近大分慣れてきて、トム・ウェイツイギー・ポップの声みたいに聴こえてきました。ポーグスでもいいですね。