大貫妙子『ROMANTIQUE』


前作から2年のインターバルを経て発売された80年リリースの4作目。ここからヨーロッパ路線がスタートします。

 

前作『ミニヨン』での商業路線への歩み寄りによる失敗からやる気を失っていたところに牧村憲一からヨーロッパ路線への転換をアドバイスされる。これが功を奏して、このアルバムから大貫妙子は次のステージへと進化します。そして届けられたこの作品はとても充実した内容になりました。

 

こちらもざっくり言うとA面が坂本龍一、B面が加藤和彦のアレンジによる内容となっていますが、一貫して関わっている坂本龍一のアレンジはヨーロッパ路線でも冴え渡っています。基本は何でもできる。その上で、冒頭の「CARNAVAL」はメンバー的にも音的にもYMO路線といっても良いでしょう。しかし白眉は4曲目の「若き日の望楼」だと思います。この気品のある美しいメロディ。次の次元へと羽ばたく道標となっていると思います。

 

考えてみれば加藤和彦も当時ヨーロッパ三部作に取り組んでいたし、演奏に参加している高橋幸宏もかしぶち哲朗もヨーロッパ路線が本質にあるミュージシャンですので、応援してくれる人が沢山いる。これは非常に恵まれていたと思います。

 

ヨーロッパ路線と一言でいっても何がヨーロッパなんだろう、と思ってしまいますが、要するにヌーヴェルバーグを中心としたフランス映画が肝になっている。音楽がとても映像的なんですね。映画音楽的でもあります。そしてアメリカやイギリスの方を向いていない。ここへ来て初めて大貫妙子シュガーベイブからのソウル、ポップス路線から離脱していきます。ここで山下達郎吉田美奈子とは異なる方向へと歩み出した。そしてそれがご本人の歌唱にも合っていたし、その後の路線を確立した瞬間でもありました。その出発点にあるアルバムが本作ということになります。

 

「新しいシャツ」は唯一これまでの路線を踏襲する楽曲のように聴こえますが、ここでの青春を振り返る感じは坂本龍一との若き日の邂逅をイメージさせて清々しいですし、ラストのシュガーベイブ時代の楽曲の再録「蜃気楼の街」は、大貫妙子が次のステージに上がったことを証明するかのような余裕を感じさせるアレンジとなっています。とても多面体で充実した内容の作品。久々に聴いても新鮮でした。