はっぴいえんど『はっぴいえんど BOX』『はっぴいえんど』

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今回の一件を機に、04年にリリースされたはっぴいえんどのボックスを聴き直してみることにしました。当時散々迷った挙句、思い切って購入した8枚組のボックス・セットです。

 

最初は70年リリースのデビュー・アルバム。この作品はしばらく前に一度聴き返してみたんですが、その時の印象は「冬の歌が多いな」というものでした。はっぴいえんどが始まった最初の曲は「十二月の雨の日」ですし、冒頭の「春よ来い」もお正月から始まる。「しんしんしん」は雪の歌ですし、「朝」も冬の朝を歌っています。

 

この作品は当時メンバーが目標としていたニュー・ミュージック・マガジン誌の「日本のロック賞」を見事に受賞しました。その後、同誌上を中心に「日本語のロック」論争に巻き込まれていくわけですが、やはり何といっても1曲目の「春よ来い」で「お正月といえば〜」と歌われるインパクトが全てだったんじゃないかと思います。この曲は今聴いても不気味な感じがしますし、「です、ます」調の歌詞も独特です。

 

そして、大滝詠一の曲の完成度がこの時点で既にかなり高くて、細野晴臣の楽曲がまだ追い付いていない印象も受けます。細野晴臣は自分で歌うことにまだ抵抗があった。その後、小坂忠の『ありがとう』をプロデュースして、ジェームス・テイラー風の低音ボーカルを発見してから『風街ろまん』で初期の到達点に達する。この1stの段階ではまだそこまで至っていないわけです。

 

このアルバムは印象が暗いので、これまでも案外と聴かない作品でした。自分は後追いのリスナーですので、はっぴいえんどYMOから遡って『風街ろまん』を聴いてから、この1stに辿り着きました。そこでの印象も地味でしたが、その後もずっと地味な印象です。リアルタイムで登場した時のインパクト、違和感のようなものは同時代でなければ味わえない部分も多いと思います。

 

それでも「春よ来い」の強烈な空間の切り裂き方には今でも耳を奪われるし、この後のバンドの変遷には目眩くものがある。そして半世紀経っても終わらないという物語性。非常に魅力のあるスタート地点だと思います。

ジャッキー・マクリーン『Lights Out』

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ビル・エヴァンス以外に聴き進めていくミュージシャンとして候補に上げていたのはドナルド・バードジャッキー・マクリーンでしたが、本作ではその二人が共演しています。こちらは56年録音の作品。

 

ピアノにエルモ・ホープの名前があるのにまずは驚きました。ここでまた出会えるとは。演奏も結構フィーチャーされていて、充分に味わうことができます。

 

ジャッキー・マクリーンに対するイメージは、エキセントリックに突っ走る感じかと思っていました。ただ、ここまでいくつかの作品を聴いてきて、何となくそういった感触ではないと感じています。もう少し落ち着きがある。本作もリラックスして聴けるような作品だと思います。

 

勿論スピード感のある曲もあるんですが、どこかゆったりとしているように聴こえます。これが音色の問題なのか、端的に演奏時期が古いのか、判然としないところがありますが、もしかしたらまだ自分の琴線に触れていないのかもしれない。少しジャッキー・マクリーンについては聴き進めるペースを落としてみようと思います。

はっぴいえんど崇拝論

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四半世紀以上前に書いた「はっぴいえんど崇拝否定論」という文章が何故か結構読まれており、若気の至りで非常に恥ずかしい文章となっているため、部分的に書き直したりしていました。その上、自分ははっぴいえんど自体は大好きなので、当時の内容の訂正も含めて少し方向修正をしようと考え、本文を書いています。

 

文章を書いたのが95年、その元となった山下達郎大滝詠一の新春放談が94年です。今ではYouTubeで聞くことができますが、当時は友人にもらったカセットテープで聴いて、大滝詠一の「24年を棒に振った」という発言にとても驚いたのが文章を書いたきっかけでした。自らのスタート地点を否定するなんて、どういったことなんだろう、となかなか理解できなかった。

 

しかし、大滝詠一からしてみれば、日本のロック、いやそもそもロック自体、左程自分の人生に関係なかった。ポップスは好きでしたが、ロックは当時一生懸命聴いて理解しようとしていた対象だったわけです。

 

加えて、日本語についても、日本はそもそもスコットランド民謡を「蛍の光」として歌ってきた国であり、明治維新以降、あるいは仏教伝来以降脈々と存在する海外からの文化を日本語に置き換えていく流れの一パターンとしてはっぴいえんどがあっただけだ、という考え方なので、何も日本のロックの創始者として祭り上げられることは大滝詠一にとって名誉でも何でもなかったわけです。

 

細野晴臣にしてもそうでした。日本語で歌うことに最後まで抵抗したのは細野晴臣だった、という話もある程で、ご自身はバッファロー・スプリングフィールドのような音楽ができれば歌詞は英語でもよかった。むしろグローバルに活躍するには英語の方が向いている、という考え方でした。そこを説き伏せたのが松本隆だった。

 

すなわち「日本語」にこだわったのは松本隆であり、かつその手法がフォークでもなくGSでもなく、風景を感じさせる「歌詞」だった。そこには言葉の「意味」とともに言葉の持つ「音」も意識されていた。そしてその歌詞が先にあって、そこに革新的な譜割で曲をつけていったソングライターが大滝詠一であり細野晴臣だった。その楽曲は詞も曲も最高に洒落ていたわけです。

 

日本独自の文化、などという大それたものではなくて、洋楽を日本語に置き換えていく一連の取り組みのひとつでしかない、という面でははっぴいえんどは神格化されるのは本望ではない。ただし、歌詞と楽曲の組み合わせのクオリティが高かったので、自分もその魅力には大いに惹かれました。そしてその音楽の魅力はやはり『風街ろまん』に尽きると思うんです。

 

日本独自の音楽を探していくこと自体、恐らく意味がない。全ては外来に起源があって、その辺りを大滝詠一は分母分子論やポップス普動説で折に触れて説明しています。きっと昨今のシティポップのブームについても、ご存命であれば全体の流れの中で位置付けていたでしょう。そんな風に最近は考えています。

リー・モーガン『Lee Morgan Vol.3』

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続いても57年の録音。ここでは全曲の作編曲を先輩のベニー・ゴルソンが手がけていて、冒頭からフルートの音で始まります。

 

リー・モーガンのリーダー・アルバムと銘打ってはいますが、この時弱冠まだ18歳ということなので、先輩がお膳立てしたフォーマットに乗って意気揚々と演奏している、といった方が正しいのではないでしょうか。

 

ピアノはウィントン・ケリー、ベースはポール・チェンバースと、マイルス組も参加していて豪華。各々の楽器のメインをとる音が響いてきて、全体的に構築感も感じられます。

 

前年に自動車事故で亡くなったクリフォード・ブラウンに捧げる曲が収録されていますが、ジャズ界には本当にこうしたエピソードが多いですね。楽曲はとても優しいトランペットの音がリードしていて、亡くなった盟友への素直な感情が感じられます。

 

いいアルバムですが、なるほど『Candy』が人気作品なのも頷けるような気もします。疾走感がいいんでしょうね。

リー・モーガン『Candy』

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57年、58年録音のこの作品は、以前に会社の先輩から借りて聴いていました。約6年ぶりにきちんと聴いたことになります。

 

当時から気に入ってはいたものの、余り情報もなく聴いていたので位置付けがよく分かっていませんでした。リー・モーガンはこの時弱冠19歳。当時彗星のように登場して多くの作品を残し、その後ジャズ・メッセンジャーズに抜擢されるという輝かしいキャリアを誇ることになります。

 

本作でのピアノはソニー・クラークだったんですね。どの曲でも思い切りフィーチャーされていて、速弾きのピアノを弾きまくっています。

 

全体的に爽やかで軽快な演奏で一気に突っ走る作品ですので、聴いた後の感覚もスカッとしています。この分かりやすさと爽快感がリー・モーガンの魅力なんでしょう。まだまだ沢山作品があるので、もっと聴きたくなるミュージシャンです。

ビル・エヴァンス『You Must Believe In Spring』

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77年録音のこの作品は『I Will Say Goodbye』と並んで後期ビル・エヴァンスの名作とされていましたので、ずっと聴きたいと思っていました。今回やっと手にすることができましたが、内容は、とにかく美しい。

 

亡くなった恋人や兄への追悼の曲が2曲も収められているので、印象的にシリアスになるかと思いきや、これが徹底的に透明感があって美しい。悲しみの感情が美に昇華されるなんて、何と素晴らしいことか。

 

そして本編ラストの「Theme From MASH」の明るい調べに救われる感じ。この構成やピアノの音の響きは頂点を極めていると思います。

 

ボーナストラックが比較的元気のいい演奏でまとめられているのも良いバランスで、全編通して心地良く聴ける作品でした。

マル・ウォルドロン『MAL - 2』

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57年録音の作品。マル・ウォルドロンは初めて聴きますが、ピアニストであり作曲者であり編曲もこなすという人で、この作品でも全面的に編曲を行なっています。

 

全編にわたってコルトレーンが参加しているのが目を惹きますが、ジャッキー・マクリーンも参加していたりして、顔ぶれは豪華です。比較的早いテンポの楽曲はアレンジがキチッとしているおかげで聴きやすくて、整理されている印象を受けました。

 

ただ、若干暗めの曲では構築感が出過ぎていて、少し窮屈な感じもしました。楽しくジャズを聴きたいと思って手を出すと、半分くらいは冗長に聴こえてしまう結果になるのがちょっと残念な気がしました。